第6章 BLESSED RAIN
三月さんに話を聞いて貰って、頭の中もクリアになった。
お兄ちゃんって呼んでみろって言われた時は、ちょっとハードル高かったけど。
でも、万理以外にそういう風に呼べる人は子供の頃以来だったから、懐かしい感じと恥ずかしい感じがあって。
それもなんだか、心地いい感じがした。
三月さん、寮でもお兄さんっぽいし。
あ、実際には一織さんのお兄さんでもあるんだけど。
私にも、本当にお兄ちゃんって呼べる人がいたら···とか、夢見ちゃうよね。
ひとりっ子の鍵っ子だったから、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかに憧れたりしたもんなぁ。
学校とかから帰ったら、おかえり~!とか言ってくれたりして·········それ、万理だったじゃん。
テスト勉強?どこが分からない?···あぁ、ここね。面倒だけど解き方教えてあげるよ······それ、千だったし。
お兄ちゃん···いたわ。
優しいのと、それから厳しいのとが。
子供の頃を思い出して、胸の奥でクスリと笑いながらメイクを落とした。
っていうか。
1日にこんなに何度もメイク全直しとか、肌荒れ···大丈夫かな。
全部が終わって帰寮したら、これでもか!ってくらいスキンケア頑張ろう。
···その前に。
龍との撮影を頑張らないとなぁ。
先に撮り終えた天や楽のものとは違って、龍との撮影はセリフは一切なし。
監督からの指示は、お互いに言葉を交わさずに表現力で勝負してくれってだけだったけど。
敢えてなにも言わず。
後入れのナレーションだけで仕上げる、とか。
そのナレーションは私が後入れするんだけど···
いろんな事を思いつく監督のイメージを壊さないように、それから自分達があくまでも脇役である事を忘れないように。
CMの主役は私達ではなく、商品そのものだから。
『んン~!あとひとつ頑張るぞぉ!ありがとうございます三月さん!!』
グイッと伸びをして、目の前に現れる天井へ向けて叫ぶ。
そこへひょこっと覗き込む社長の顔が見えて···
『いつからいらっしゃったんですか?!』
小「今さっき、だけど?キミが電話を終えて百面相しながらメイクを落としていた辺りかな?ちゃんと声は掛けたし、キミも返事はしてくれたけど?」
···無意識に返事してたのかな??
全然分からなかったから、凄いびっくりした。