第6章 BLESSED RAIN
ー ごめんなさい···理由は言えないけど、ちょっと、あって··· ー
やっぱりか···
社長にも言えない理由ってのも気になるけど、愛聖が言えないって言うなら無理に聞き出すことも出来ないしな。
「なにがあったとか、これと言ってしつこくオレも聞かない。けどな、愛聖···話を聞いてやることは、いくらでも出来るぜ?ほれ、お兄ちゃんお願い!とか言ってみ?」
きっと愛聖は、真剣に話を聞いて欲しいのと、それから···誰かに背中を押して欲しいのとが入り交じってるんだな。
優しい言葉なら、壮五やナギがいる。
万理さんや社長だってそうだ。
環や陸は、斜め右くらいの返答が来るだろうし。
一織は···まぁ、アイツはこういう時は手厳しいこと言うしな。
大和さんは、話は聞いてくれるけど···缶ビール片手にってのが予想できちまうし。
等身大の言葉が欲しくて、オレを選んだんだろう。
出来ない時の悔しさとか、苦しさはオレもよく分かる。
そういう時、オレも大和さんにいろいろ押して貰ったしな。
「ほら、三月お兄ちゃんって呼んでみ?そしたら時間の許す限り、好きなだけ構ってやるぞ~?」
カラカラと笑いながら言えば、通話口の向こうでフッ···と笑いを漏らす愛聖を感じた。
ー じゃあ···三月お兄ちゃん、私に元気を分けて下さい ー
「お···おぅよ!とことん聞いてやるぞ?」
ヤバいな、これ。
自分で催促しときながら、結構くすぐったい。
胸の奥のむず痒さを隠しながら、愛聖の話を聞いてやる。
時には同意して頷き、時にはそうじゃないだろ?と諭しながら···10数分の時間を共有した。
「元気、出たみたいだな」
いつもの様に笑う愛聖の声に言えば、聞いてもらってスッキリしたとまた笑う。
ー 三月さ、じゃなくて。三月お兄ちゃんありがとう···お兄ちゃん、大好き。じゃあ、また寮で ー
「愛聖、頑張れ。じゃあな」
な···なんだよ最後の!
大好き···とか、反則だろ?!
ひとりスマホを握りしめながら、その最大級のくすぐったさに身悶えていた。