第6章 BLESSED RAIN
楽「おい···撮影、終わってるぞ」
うん···分かってるよ。
分かってはいるんだけど、楽を真っ直ぐ見ることが···出来ない。
カメラが回ってる時は大丈夫だったのに。
この状況があの夜の事を思い出させて、体を強ばらせる。
楽「ほらよ、さっさと起き上が···」
私を起こそうと肌に触れる楽の手を思わず振り払ってしまう。
『ごめん···なんでもないから』
楽「···そう、かよ。この後また休憩だろ?お前、なんか顔色悪いから部屋まで送る」
『あ、それは1人で大丈、』
小「愛聖さんには僕がいるから大丈夫だよ、八乙女くん」
『社長···』
ベッドから抜け出し、立ち上がりかけた所で社長が会話に割って入ってくる。
小「今日は僕が彼女の同行者だからね。こういう撮影だから女性の同行者を···とも考えたけど、都合がつかなくて。さ、控え室に戻ろうか?歩ける?僕で良ければおぶっても抱っこしてあげてもいいよ~?」
悪気もなくニコニコと言う社長が間に入り、楽はそれ以上何も言わずに会釈をしてその場を後にした。
小「少し、疲れたんじゃない?向こうサイドのスケジュールに合わせての強行だし、普通なら数日かけての撮影だからね」
『大丈夫です。やれます』
もっと仕事を···って話をしたばかりなのに、これくらいでどうにかなってる訳にもいかない。
前はもっともっと、寝る時間さえ移動中だけなんてのもザラだったんだから。
それよりも今は、頭の中を早く空っぽにしたい。
天には大丈夫だなんて言ったけど、お互いに肌を晒して寄り添ってみると···やっぱりまだ、楽が少しだけ怖い。
もちろん、普通に話す分にはなんともないんだけど。
こういうシチュエーションに遭遇すると、まだ胸の奥がザワついてしまう。
小「行こうか」
社長の言葉に頷き、控え室へと続く廊下を歩く。
さっきつまづいた時に挫いた足首はまだ痛むけど、
そんな事よりも。
差し出された手を振り払ってしまった後に見た、楽の顔を思い出して···胸の方が、痛かった。
ふと横を見れば、窓ガラスには悲愴な顔をした自分が写り立ち止まる。
『···ひどい顔』
小「ん?何か言った?」
『あ、いえ···なんでもないです』
小「そう?だったらいいけど」
こんな顔してたらダメだ。
···なんとかしないと。