第6章 BLESSED RAIN
天との撮影が終わり、監督が休憩を入れると周りのスタッフに声を掛けながら私の元へと歩いて来た。
「佐伯ちゃんも控え室で休憩していいからね?今日はハードスケジュールになっちまったから、休める時は休む!オッケー?」
『はい、ありがとうございます』
以前にもお世話になった監督は、前と変わらず明るく声を掛けてくれる。
「しっかし驚いたよ。しばらく見ないと思ってたら移籍とか、なんかあったのか?」
別に、この監督は腹の探り合いをするような人ではない事は分かってる。
でも、さすがに···言えないよ。
『ん~、特には何も。会見でお話した通りです』
「そっかそっか!いやぁ、ちょっと気になる話を耳にしたから心配してたんだよ」
···気になる話?
『それって私に関係してるんですか?』
何となく引っ掛かる感じがして、監督の聞いた噂話に私の名前が出たのかと気になり、そう返した。
「まぁ···関係してるかどうかは分かんねぇけど。ほら、佐伯ちゃんも知ってるだろ?あの落ち目のタレントや新人にやたら声掛けては食っちまって散々にした挙句にポイッてするプロデューサー!」
それって···もしかして···
ゾクリと背筋が冷たくなり、監督がいうプロデューサーが···あの日、私に声を掛けてきた人物だとすぐに理解出来た。
『その人が、どうかしたんですか?』
なるべく平静を装って、話の続きに耳を傾ける。
「それがさぁ!そいつが言ってたらしいんだよな。もう少しで佐伯 愛聖をモノに出来そうだったんだ、とかなんとか。オレも人伝いの又聞きだったからなんとも言えねぇけど、その直後に佐伯ちゃん見なくなるし、お宅の社長···って、あぁ、今は小鳥遊さんだけど、前のな、前の!ちょうど素材を探してたから問い合わせしたら、佐伯ちゃんは調整中だからとかピシャリと断られんし」
つい、その光景が浮かんでしまい苦笑を漏らす。
「でもまぁ、今日ここに佐伯ちゃんが存在してるって事は、それも何かの間違いだったんだろ。な?」
豪快に笑いながら私の肩を叩く監督に、私も笑って返す。
『監督、私の再出発の最初の仕事が···監督とご一緒出来て良かったです。不安ばっかりありましたけど、元気出ちゃいました』
そう言って返すと監督は目を細めた。