第6章 BLESSED RAIN
八「そんな甘ったれた事しか考えられないんなら、早々に事務所を畳む事だな」
「八乙女···」
八「いいか、一度だけ言う。いい仕事って言うものは最初から存在などしない。どんな仕事にもリスクは付き物だ。それを自分の味方にするか、毒へと変えてしまうかは本人達自身だ···もし、毒へと変化してしまうなら、その毒ごと取り込んでしまえばいい。自分が毒になる事で、周りの毒は良薬へと変わる···少なくとも、私はそうやって今日まで自分の会社を守って来た」
毒ごと、取り込む···そうか!
「ありがとう八乙女。キミの言葉で何かを掴めそうだよ」
八「···なんの事だ。私はすぐにでも潰れてしまう小さな事務所の甘ったれた代表者に餞別をくれてやっただけだ」
『あの···社長?どうかされましたか?』
「あ、ううん。なんでもないよ」
目の前にいる愛聖さんは、いい意味で···ホントに彼の遺伝子を受け継いでいるようだ。
やれやれ···と息を吐き出し、彼女の顔を正面から見据える。
小「キミの気持ちは分かった。だから、なるべく早めに受けられる物があるかを調べておくよ。ウチには有能事務員がいるからね」
『勝手な事ばかり言ってしまって申し訳ありません···でも、ありがとうございます。社長にこうして出会えて、私は幸せ者です」
窓から差し込む日差しを受けながら微笑む彼女は···今は亡き妻と同じ言葉を僕に向ける。
不思議な子だよ、八乙女。
僕に関わりのあるキミと、それから···結と。
その両方が僕にくれた言葉を、この子は何も知らずに···僕に言うんだから。
紡が産まれた日に、僕に···結は同じ言葉を言ったんだ。
結「音晴さん、私と出会ってくれてありがとう。それから、こんなに素敵な家族も増えて···私は、幸せ者です」
···ってね。
僕が万理くんくらい若かったら、口説いてたりして、なんて。
·······ない、かな。
その後ろにいるのが八乙女だと分かっているなら、尚更···ないかな?
なんて、思ってみたり。
···しっかりしなさい、小鳥遊音晴。
目の前にいるのは紡と年端も変わらない女の子じゃないか。
さて、と小さく言って、時間まで少し···仕事の話をしようか?と手元にあるパソコンを開いた。