第6章 BLESSED RAIN
❁❁❁ 小鳥遊音晴side ❁❁❁
「オーディションを受けたい?これはまた急な申し入れだけど、なにか心境の変化でもあった?」
予定の時間より随分早く来たと思ったら、少しばかり緊張した面持ちをした彼女がオーディションの予定を教えて欲しいと話し出した。
少し前までは、仕事はまだ···なんて言っていたのに、どういう気持ちの変化なのだろうか。
『変化、というか···さっき、アイドリッシュセブンのライヴのチケットが完売になったんです。それで、私もみんなに負けていられない、置いていかれたくない···とか。スケジュールはまだ真っ白なままですし、だから···』
「気持ちは分かるけど、焦ってもいい仕事は見つからないよ?ちゃんと選んで、リスクの少ない物を、」
『いい仕事って、なんですか?どんな仕事にもリスクは付き物です。それを自分の味方にするか、毒へと変化させるかは自分次第だと、私は思います』
これは···ちょっと驚いちゃったな。
まさかここで、昔の八乙女が言っていた言葉を彼女の口から聞くとは思ってなかったよ。
八「こんな所で油を売っているとは、小鳥遊プロダクションも軌道に乗ったということか?」
「あはは、そうじゃないよ。なかなかいい仕事を見つけてあげるのが難しくてね···どうしたらいいのか考えていたところだよ」
立ち上げたばかりの会社に所属してくれたタレントの仕事探しをして歩き回り、どうしたらいい仕事が見つけられるか途方に暮れながらテレビ局の通路で背中を壁に預けていた。
八「いい仕事だと?フン···くだらんな。そもそも、いい仕事って言うのはなんだ?金か?名声か?そんなものは後からついてまわる。そんな事も分からんで起業したのか、お前は」
「まだ立ち上げたばかりだし、確かにお金も必要だけど···そうじゃないんだよ、八乙女。うちに来てくれたみんなが両足を付けて立っていられる仕事って言うのを僕が責任を持って見つけてあげないとって思ってるから」
僕を信じて集まってくれたみんなに、せめて人並みの生活が出来る仕事を探さないとだから。
八「企業の上に立つ人間の言葉ではないな」
「八乙女はいつも辛口だなぁ···」
でも、そう言われても反論さえ出来ない自分がいることも確かではあるけど···
「リスクがあると分かっていて、それを割り当てるなんて···」
