第6章 BLESSED RAIN
一瞬で私を上から下まで見た一織さんが、動揺の声を上げる。
『これは、その···あ、そうだ···大変です一織さん!この寮には悪い人が紛れ込んでいるんです!』
一「佐伯さん、自分が何を言ってるか分かってるんですか?」
『···すみません』
ノリノリでやり切ろうと思った所に、冷静に返されてしまうと···辛い。
『さっきの事をちゃんと謝ろうとしたら、三月さんがナギさんの部屋にいい物があるからって···それで、ちょっと変身してみたんです』
一「兄さんが?」
『はい、まぁ···だけど、悪ノリみたいになっちゃってごめんなさい。後ほど改めて謝罪に伺います』
ぺこりと頭を下げて1歩下がれば、その様子を見ていたみんなが集まって来た。
三「一織、愛聖は悪くないからな?それをさせたのはオレらだし、あんま怒んなって」
大「そうそう。カワイイ格好してイチの部屋に行けってミツが」
カワイイ格好というか、思いっきりコスプレですけど。
一「私がカワイイものを愛でるとでも?」
···一織さん、枕の下に可愛いもふもふしたマスコット隠してたと思うんですけど。
口に出しては言えない代わりに、ジーッと一織さんの顔を眺める。
一「なんですかその疑わしいものを見る目は。べ、別に私はカワイイものが好きじゃありません」
一織さんがピシャリと言い退けるのを見て、私は小さく息を吐いた。
『じゃあ、あの一織さんの枕のし、』
一「佐伯さんには少しお話をしないといけないようですね···とりあえず、こちらへ」
私の言葉を遮り、一織さんが軽く背中を押すようにして部屋の中へ私を招き入れる。
同時にドアが閉められてしまい、外野がガヤつくのも構わず一織さんが振り返る。
『い、一織さん、お話って?』
一定の距離を保ちつつ、少しずつ後ずさる。
一「今後一切、あの子の事は口外無用です」
『あの子って言うのは、もしかして···もふもふちゃんの事ですか?』
チラリと一織さんのベッドを見て言えば、一織さんは一瞬目を泳がせながら息をついた。
一「ハッキリ言わないと分からないとは、思ったより鈍い人ですね···とにかく、あの子の事は佐伯さんの記憶から消し去って下さい」
『一織さんの中で、そんなに恥ずかしい事ですか?かわいい物が好きだって事は』