第6章 BLESSED RAIN
龍と簡単な会話を交わして、あくまでも帰る “ フリ ” をした。
この部屋のドアは外開きだから、ドアが開いたら···あとはどうにでもなる。
ドアの横の壁に背中を預けて、どれくらい経ったのだろうか。
静かな部屋に、ドアの向こうで人が動く気配がして···やがて小さな音を立てながらそのドアが開き、楽が姿を見せた。
楽「龍···お前、愛聖を送って行ったんじゃなかったのか?」
龍「あ、まぁ···その予定ではあるんだけど、ちょっと事情があって···アハハ···」
楽「事情?」
もごもごと言葉を並べる龍を楽が一瞬、目を離した。
『龍!私がいいって言うまでドア押さえてて』
楽「なっ、お、お前まだいたのか!」
狼狽える楽の体をもう一度部屋に押し込みながら、私も部屋に押し入る。
龍に合図を送りドアを閉めると、楽の体をグイグイと押しながらベッドに腰掛けさせ正面に立った。
楽「お、前···」
『楽。私はちゃんと···楽と話がしたい』
バツの悪そうな顔をして横を向いている楽に、私は笑いかけた。
『さっき、楽は後悔のど真ん中にいるって···言ってたよね?それって、どうして?』
楽「どうしてって、それはお前を、傷···付けたから、だ」
『傷付けたって?』
楽「だからそれは···これ以上、言わせるなよ···」
確かに、さっきは初めて見る楽を怖いと感じた。
けど、いま私の目の前にいるのは、そんな楽じゃなくて。
『あのね、楽。さっきはちょっと、ビックリしちゃったって言うか、ちょっと怖かったって言うのは本当だけど。でも、大丈夫!結果的には何もなかったんだし···それに、後悔してるとか言われると、それはそれでなんか悲しい』
楽「···は?お前、自分でなに言ってるか分かってん、」
『分かってるよ。だけど、私が何もなかったって思ってるんだから···それでいい。狼に噛まれたとでも、思っとくから』
楽「狼に噛まれたら、死ぬぞ」
『アハハ···そうかも。でも、私はちゃんと生きてるから結果オーライなんじゃない?···ね?』
楽「俺は···そんな軽い気持ちであんな事をしたんじゃない。確かに酒の影響はあったかも知れないし、けど、」
グッと握った楽の手が、膝の上で微かに震え出す。
『あぁ、もう!分かった、分かりました!』