第6章 BLESSED RAIN
楽が、私に?
動揺し過ぎて頭の中で、なんで?とどうして?がグルグルと回る。
楽「お前が···千さんの名前ばっか言うから」
『千の名前って、いまのは普通に会話の流れで千の事が出ただけな、のに···楽?』
再度引き寄せられ、痛いほどに抱きしめられる。
『ちょっと···まだ結構、酔ってるんでしょ』
きっとそうだと自分にも言い聞かせて···笑い流してしまおうと顔を上げながら、体を離しながら楽の胸元を軽く叩く。
けど、その手はあっけなく楽に掴まれてしまって。
楽「愛聖···もし、嫌なら···俺を殴れ」
『殴れって、意味もなくそんなこと出来るわけな···んっ···』
なに······これ······
さっきのそれとは違い、2度目のキスは···優しくて、甘くて···
『楽、待っ···ふ、ぁ···』
何とか押し返そうとしても強く抱き寄せられた体と、楽の手で固定された頭を動かすことも出来ずに···その甘さに酔ってしまいそうになる。
酸素が欲しくて薄く開いた隙間からは、楽が私を容赦なく侵食する。
怖いのは···戸惑いながらも、それに少しずつ応え始めている自分自身で。
長く長く繰り返される時間に、甘く痺れた心と体が麻痺して行った。
不意に離れた唇が名残惜しいと思える自分に深く目を閉じると、そっと髪を梳く擽ったさに首を竦めて目を開ける。
直後、ふわりとゆっくり景色が流れて行き···背中全体を柔らかなソファーが包み込み、楽の向こう側に天井が見えた。
私をまっすぐに見下ろす、熱を帯びた楽の瞳から逃れることも出来ずに、ただ···見つめ合う。
楽「愛聖。俺は今夜、お前を···帰したくない」
その言葉に、胸の奥が大きな音を立てた。
けど、それと同時に別れ際の百ちゃんの言葉が脳裏を掠めてハッとする。
百 ー 一応、楽も男だし···酔った勢いでとか、さ? ー
酔った、勢い···で。
さっきまで甘く痺れた頭と体が一気に冷静さを取り戻す。
楽から顔を逸らしながら、危うくこの現状に流される所だったと反省し始める。
楽「···愛聖」
私の名前を呼ぶ楽に、返事の代わりに視線だけ移すと···楽は、まだ熱を帯びたままの瞳で···
ブラウスのボタンにそっと手を掛けた。