第6章 BLESSED RAIN
渋滞に巻き込まれることもなく、思ったより時間もかからず楽の部屋までたどり着いた。
幸いにも部屋の鍵は車のと一緒に付けてあったし、楽を揺り起こして七割方寝惚けているまま、とりあえずソファーへと促した。
『お水くらい、飲む?』
楽「あぁ···頼む」
前に何度かここへは来てるから、勝手は分かるしと冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して、グラスをつけて楽に手渡す。
『せっかくの冷蔵庫なのに、飲料水しか入れてないんだね。自炊の欠片もないっていうか』
楽「別に、気が向いたら買ってきて作るだけだ。ここへはほとんど、いまは寝る為に帰って来てるようなもんだからな」
『忙しそうだもんね、TRIGGER』
楽「フン···まぁな」
グラスの水を飲み干し、ふぅっと息を吐いてソファーに背中を預ける楽を見て私はため息を吐いた。
『そんなに酔ってないとか言ってたけど、その様子だと結構飲まされてたんじゃない?···ほら、ジャケット脱いで?シワになると直すの大変だから』
天井を仰いで顔を手で覆う楽からジャケットを脱がせ、ハンガーごと壁際に掛ける。
『千達がいたからカッコつけてたんでしょ?別に千はそんなの気にしないと思うけどなぁ···どっちかって言うと、千はなんだかんだ言っても世話焼きタイプだから、もう飲めないって言えば大丈夫なのに』
楽「ハァ···また、千さんかよ」
『ん?千がどうかした?』
楽「お前、ホント···どこまで鈍感なんだよ」
『なにが?···あっ、ちょっと?!』
グイッと腕を引かれバランスを崩しながらソファーの楽へと凭れ掛かる。
『急に引っ張ったりしたら危ないでしょ!···それだけ元気なら、もう心配なさそうだから帰、』
胸を押し返すように起き上がろうと顔を上げて···自分が置かれている状況に、思考回路が···止まる。
私の顔をサラリと撫でる、楽の···髪。
まるで押し当てるように重ねられた、楽の···唇。
驚きながらも塞がれた口の息苦しさにキュッと楽のシャツを掴めば、それを感じた楽が漸く息苦しさから私を解放した。
『な、に?···いま、の···』
瞬きする事を忘れたまま、まっすぐに楽を見つめる。
楽「なにって、キス以外のなにがある」
『そうじゃなくて、どうして』
楽「俺が、そうしたかったからだ」