第5章 ヒカリの中へ
これは···夢···だよね?
だって、母さんがあんなに若くて···笑ってる···
それに、あそこにいるのは小さい頃の···私。
「あのね、愛聖。今日はね、母さんの知り合いが息子さんを連れて来るんだって。愛聖と年も近いから一緒に遊べるだろうって言ってたよ?」
私がまだ小さい頃。
父さんが亡くなって···ずっと落ち込んでいた母さんが、少しずつ元気になって。
そんな時、お弁当作ってると思ったらピクニック行くよって言われて。
知らない男の人が、私より少し年上のお兄ちゃんと一緒に···広い芝生の公園に来た。
その人を見た瞬間になんだか怖くて、母さんにしがみついて。
新しいお父さんはいらない!
愛聖の父さんは、父さんだけだもん!って言って泣き出した私に、母さんは少し困った顔をしながら···
「愛聖の父さんは···父さんだけだよ」
って言って、私を抱きしめてくれた。
そんな私を見て、連れて来られたお兄ちゃんが。
「お前、泣き虫だな」
って、横を向きながら言ったんだっけ。
その後はお人形遊びとか、恥ずかしがりながらも···おままごととかに付き合ってくれて。
いよいよ飽きてしまったのか、急に立ち上がって私に手を差し伸べた。
「こいよ。お前が見たことない世界を見せてやる」
『みたことないせかい?』
「きっと楽しいぞ···行こう」
そう言って私の手を引いて駆け出して、母さん達から少し離れた場所にある池の周りを散歩したり、人工的に作られた小川で水遊びをしたり。
手も顔も、服も真っ黒になるまで遊んでた。
探しに来た母さん達がそれを見て怒ってたけど、女の子の遊びしか知らなかった私は、怒られても楽しかったって思ってた。
それからも何回かだけ一緒に遊んでくれたけど、いつの間にか会わなくなって。
大人になるに連れて、顔も忘れてしまって思い出の中のひとりに変わってしまった。
···そう言えば。
ずっとお兄ちゃんって呼んでたけど、名前···なんだっけ···
それに、お兄ちゃんと一緒にいた人も···
思い出したくても、思い出せない。
そんなもどかしさの中で、ふと気が付けば···さっきまでいたはずの母さんの姿がなくなっていた。
賑やかだった場所に、ポツンと···ひとり。
広い芝生の上に、ひとり。