第5章 ヒカリの中へ
❁❁❁ 一織side ❁❁❁
「終わりました。四葉さんはどうです?」
課題をやり終え、ノートを閉じながら聞けば逢坂さんが苦笑を見せた。
壮「さすが一織くんだね。こっちはもう少し···時間が掛かりそうだよ」
そう言った逢坂さんの目線の先には、まだ白い部分がほとんどの四葉さんのノート···
「四葉さん。昨日の授業、ちゃんと聞いていないからそういう事になるんです。ハァ···仕方ありませんね、私のノートを見せてあげましょう」
環「え?!マジで?!いいの?!」
この喜びよう···
「先に言っておきますが、あくまでもノートを見せるだけです。なるべく自分で解いて下さい。どうしても分からなければ、逢坂さんに」
ノートを取りに自分の部屋へ向かう。
まだ眠っているかも知れないと、音を立てないようにそっとドアを開ける。
ベッドの下に置かれた机からノートを取り出したところで、寝返りをうつ気配を感じた。
ベッドの中を覗けば、やはり予想通り寝返りをうった愛聖さんがこちら側を向いてすぅすぅと寝息を立てている。
目元には、逢坂さんが言っていたように薄らとクマが浮いていて。
「まったく···あなたはキャリアのある大先輩のはずなのにクマが出来るほど夜更かしするなんて、自覚あるんですか?」
やや呆れながら呟いて、それでも寝息を立て続ける姿になんとなく顔が緩んでしまう。
起きてる時はあんなに元気いっぱいなのに、こういった姿を見ると年上だと分かっていても可愛らしく思えてしまって···無意識に、その寝顔に手を伸ばしていた。
『···ん···』
スッと頬を撫でると、擽ったいのか身を捩るのを見てその手を引き戻し、そろそろ逢坂さんの部屋に戻ろうかと背中を向けた。
『母さん···ひとりに···しないで···』
不意に聞こえた言葉に振り返り、ハッとする。
そこに見えた物はつい先程に見た寝顔とは違い···涙が浮かんでいて、今にも1粒こぼれ落ちそうになっている。
「大丈夫です···あなたはひとりじゃありませんよ」
指先で涙の粒を払いながら言えば、私の声が届いたのか···ふにゃりと微笑んでまた寝息を立て始めた。
母親の夢を見て涙を見せた事は、秘密にしてあげます。
心で呟いて、来た時と同じように···そっと部屋を出た。