第5章 ヒカリの中へ
黙って映画を見ていた千が、涙でグチャグチャになった私を見て小さく笑う。
『なんか、いろんな事を思い出しちゃって。この映画の監督の事とか···母さんの事とか···もっと私がちゃんと出来てたら、最後の瞬間に間に合った筈なのに···』
ぽつりと零せば、千は何度か瞬きをして···ちょっと迷いながら肩を抱き寄せた。
姉鷺さんに車を飛ばして貰って駆け付けた時には、既に今際の際で。
ベッドの傍らには、なぜか八乙女社長がいて。
それまでに見たこともない、悲しげで···だけど穏やかな顔で母さんを見てた。
後から姉鷺さんに聞けば、撮影が長引いてる私の代わりに···連絡を受けた八乙女社長が母さんの所へと向かったって言ってた。
『千···この人は、今でもずっと···愛してくれてるかな···』
千「···そうだね。きっといつまでも、彼女の幸せを願ってると思うよ」
その言葉のあと私達は、無言のまま画面の中の2人の行く末を見守るように映画を見続け、やがてテーマ曲と共にエンドロールが流れ出した。
『結局、最後まで見ちゃったね』
映画の終わりを告げる文字が浮き上がったのを見て千に声をかければ。
『···って、寝てるし』
いつの間にか千は寝息を立てていて、普段から忙しくしてるのも分かってるから、そっと腕から抜け出してそのまま寝かせる事にした。
私はと言えば。
千の隣に寝るわけにも、まさかベッドで寝てる百ちゃんの隣に行くわけにも ···と、寮でやり慣れてる洗濯や水周りの掃除などをしながら時間を潰した。
そして、いよいよ眠くなって来たのを堪えるためにバルコニーへ出て、朝日を浴びながら背伸びをしていると、バタバタと慌ただしい音が聞こえて来て。
百「マリー···ここにいたのか。目が覚めたらユキもマリーもベッドにいないからさ」
『ごめん百ちゃん。昨夜寝付けなくて起き出してたら千も起きて来ちゃって、眠くなるまでって映画見てたんだけど、見入っちゃって』
百「え、それって寝てないってこと?」
『まぁ、そうとも言うかなぁ?映画終わった時には千は寝ちゃってたけど』
あくびを噛み殺しながら言えば、百ちゃんは千はいつでもどこでも寝るからね···と笑っていた。
『朝ご飯、千が起きるまで待てそう?起きるの待ってたらお昼になるかもだけど」