第5章 ヒカリの中へ
監督のあまりの剣幕に、他の演者さんも引き気味ではあったけど···巻き込まれるのを嫌がって誰も声なんて掛けてはくれなかった。
唯一、千と百ちゃんの2人だけが···心の支えだった。
「お前はまだ分からないのか!ここにいる時は佐伯 愛聖なんて陳腐な肩書きは捨てろ!」
「何を考えてるんだ!そんな程度じゃ想いは伝わらない!···お前は本当にこの男を愛しているのか!」
リテイクを繰り返しながらも毎回ダメで。
悔しくて悔しくて、その場では涙なんて出なかった。
佐伯 愛聖を捨てろ?
そしたらここにいる私は誰なの?
···心が、崩壊して行った。
遅くまで続いた撮影で、帰るよりも千の家に泊まる方が寝る時間があるからと誘われて、百ちゃんと千の家に泊めて貰った夜。
千「お前が何をどれだけ捨てようと、僕達は佐伯 愛聖を···愛してる」
そんな千のひと言に、その夜···初めて泣いた。
嗚咽を漏らし続ける私を、いつまでもずっと2人が側にいてくれたっけ。
それから少しして、母さんが倒れて。
病院と撮影所の往復の毎日を過ごして。
忙しさの中で···母さんを1人で、逝かせてしまって。
ー 離して!このまま死なせて下さい!···私はあの人を一人で逝かせてしまった··· ー
ー バカ!あの人はどんな思いで残りの時間を生きていたと思ってるんだ!···あの人は本当に最後まで···最後までキミを愛してた··· ー
ー でももう···ここにはいない···お腹の子だって、あの人がいないなら、いっそ私と··· ー
パンッ···と乾いた音がして、そこでハッと我に返る。
このシーン、いつもニコニコしてる百ちゃんの見せ場だった。
ー キミはそれでいいのか?キミを愛しながら先立ったあの人の最後の贈り物を···自分の手で手放すのか? ー
ー っ···! ー
ー 父親が必要なら···オレがこの子の父親になる。オレを、父親にさせて欲しい···こんな時に言うべきじゃないのは分かってる。だけど聞いて?オレは···ずっと前からキミを愛してた。だから···死ぬなんて、言うなよ··· ー
画面の中の2人に、自分のいろんな思いが交錯して、気が付けばとめどなく涙が零れていた。
千「号泣、しないんじゃなかったっけ?」