第5章 ヒカリの中へ
『その野心的なオオカミさんに騙されないように、うさぎさんの私は修行しようっと』
フードをポスンと被って笑えば、それを見て千は目を細めた。
『そろそろ中に入ろう?千は歌に影響したら困るから、喉を冷やしちゃダメなんでしょ?』
千「愛聖も、夜更かしはお肌の大敵。これから再活動するなら尚更。さ、部屋に戻ろうか?まだ寝付けないなら、眠くなるまで映画でも見よう···ホットミルクは必要?」
そんなにお子様じゃないんだけどな?なんて返しながら、背中に手を当てられながら部屋に入る。
結局2人でホットミルクを持ちながらソファーに腰掛け、テレビをつける。
特に必要な動きをしないままの画面でゆっくりと始まる映像に目を向けながら千に問いかける。
『千···映画のチョイス、どうしてこれ?』
千「この前モモが見て号泣してたままだったから」
『自分が出てる映画で号泣って···』
それはRe:valeと私が初共演した映画で。
確かに悲しい部分はあるけど結果的にはハッピーエンドで終わるのに、号泣まではと思いながらも作中のヒロインに自分を重ねながら見る。
···ん?自分を重ねるって言っても、演者は私か。
フッと過ぎった事に小さく笑いながらも、進んで行くストーリーに思いを馳せた。
時間軸は現代よりも少し前の話で、まぁ···いわゆる親同士が決めた結婚に若い男女が振り回される···的な、ちょっと時代錯誤じゃない?って感じの。
初めて会う人と結婚なんて出来ない!と反発し続けるヒロインが、どんなに嫌われるような言動を向けても静かに微笑む婚約者に、やがて心を開いて少しずつ惹かれて行く···なんていうよくありがちなストーリー。
自分の中で愛情を確信した頃、千が演じる婚約者が病に倒れ長く生きられないと知らされて、別れを告げられて···
ー 僕にはもう、キミの側にいてあげることは出来ないんだよ。だからもう、忘れてくれ ー
ー そんな事、出来るわけない···だってもう、アナタは私の中で、こんなにも大きな存在になってるのに··· ー
この辺りのシーンの撮影、監督に何度も何度も怒られて取り直したんだっけ···
「役を着るんじゃない!その人物として生きろ!」
···とか。
「何度言えば分かるんだ!その程度ならこの映画には必要ない!帰れ!!」
···とか。