第5章 ヒカリの中へ
小さな歌声に耳を済ませれば、それは僕もよく知ってるメロディーで···
僕がまだ···歌う事が出来ないメロディーで···
あんな夢を見た後だから、尚更···胸が苦しくなる。
どう声を掛けようか迷っているうちに、そのメロディーは終わり···愛聖のため息が聞こえたのを合図に、僕はバルコニーへと出た。
「眠れないの?」
背後から小さく言えば、愛聖は軽く肩を跳ねさせ振り返る。
『千···?!びっくりした···1度寝付いたら起きない千が、こんな時間にどうしたの?』
風に靡く髪を押さえながら、愛聖がまるで今夜の月のように静かに笑った。
「こんな時間って言うなら、お互い様···ちょっと、夢見が悪くて目が覚めた」
『夢?』
「···万が、いなくなったきっかけになった···あの日の夢をね」
いつもならモモに追及されても絶対に言わないのに、なぜだか愛聖には素直に答えしまう。
「それで目が覚めて、隣にいるはずの愛聖がいなかったから焦った。また、僕を置いていなくなったのか···って」
困ったような顔をする愛聖を見て、意地悪な言い方をしたと思った。
「でも、愛聖はちゃんと···帰って来たから」
『千···私はもう、勝手にいなくなったりしない。ちゃんと私の居場所を作ってくれた人がいるから』
そうね···と返して、僕との約束もあるからね、と更に言った。
「で、愛聖は?怖い夢でも見た?」
『そうじゃないけど···なんか気持ちが昂っちゃって、寝付けなくて』
「昂る?」
『だってそうでしょ?千と百ちゃんと川の字なんて、Re:valeのファンが知ったら···私きっと刺されても文句言えないよ?』
突拍子もない愛聖の言葉に、思わず声を出して笑ってしまう。
「Re:valeのファンに、そんな過激派がいるとはね」
『だから例えばの話だって』
もう!と言いながら笑う愛聖を見て、黙ってればいいのに···スルリと口から言葉が零れ落ちる。
「僕は···愛聖がモモにドキドキして眠れないのかと思ったよ」
『百ちゃん···に?』
言わなければ、いいのに···
「キッチンで、モモと···なに、してた?」
···零れ落ちる言葉を、止めることは出来なかった。