第5章 ヒカリの中へ
なんの前触れもなく体が弾かれ、大きな音と同時にメロディーが止まり、代わりに観客の悲鳴が響き渡る。
何が起きているのか分からず、体を起こして歌声を途切れさせた万の方を見れば・・・
そこには、糸が切れたマリオネットの様に横たわる万がいて。
床に少しずつ赤いシミが広がって行くのが見えた。
「万?!・・・しっかりしろ、万!!」
堪らず駆け寄り、万を起こしあげようと膝をついた。
「万!!」
百「ダメだユキさん!動かさない方がいいです!いまスタッフの人が救急車呼びましたから!」
モモが、万に腕を伸ばす僕を後ろから羽交い締めするように掴む。
「・・・っ!離せ、万が!!」
今までこんなに一生懸命になった事なんてないだろうって位の力でモモを振りほどき、力なく横たわる万の頭を抱き寄せた。
百「ユキさんっ!バンさんを離して!!」
「うるさい!・・・万に、触るな!」
「···万!」
···ハッとして目を開ければ、ここは僕の部屋で
「また、あの時の夢か···」
体を起こし、この夢を見るのは何度目だろうと思いながら両手を見る。
微かに震える手のひらに、あるはずのない···赤い影がチラつく。
あの日、万から流れ落ちていくものは僕の手を、シャツを真っ赤に染めて行った。
あれから何年経つと思ってるんだ?
それなのにまだ、こんな風に赤く見えるなんて。
「どうかしてる···」
乾いた笑いを漏らしながら、隣にいるはずの愛聖の姿がない事に気付く。
その先を見れば、丸まってスヤスヤと寝るモモがいる。
···まさか?!
焦燥感に襲われながら、ベッドから出て部屋のドアを開いて見渡せば、リビングにもキッチンにも···いない。
もしかしたらソファーで寝てるのか?
ベッドに入る時に散々抵抗してたからね。
そう考えてソファーを覗こうと足を踏み出せば、バルコニーへと続く窓が少し開いて風が入って来てる事に気付いた。
閉め忘れ···はないからと近寄れば、外には見知った後ろ姿が見えてホッと胸を撫で下ろす。
上着も羽織らずに外に出るとか、どれだけやんちゃ娘なんだ?
まったく···と笑みを浮かべながら、声を掛けようと窓ガラスに手を掛けると微かに愛聖の声が聞こえた。
···歌ってる?
そっと壁際に体を隠し、そこに背中を預けた。