第5章 ヒカリの中へ
音を立てないようにバルコニーへ出て、夜更けの風に吹かれながら、そこから見える景色をぼんやりと眺めてみる。
さすがに怖過ぎて真下を見下ろす勇気はないから、遥か遠くに見える景色を眺めるのが精一杯だけど。
こんな高さから下なんて見たら···口から魂出ちゃう。
そして口から出た魂はそのままここからお空に召されてしまう。
私からしたら···それくらいの高さだからね、千の部屋。
百ちゃんとエレベーターに乗ってる時、階数を表示するモニターを見て何度意識を手放しそうになったことか。
違うか···あの時はそれ以前に、千に会うのが怖くて。
それも含めて、の意識喪失準備だった。
なのに千は、怒るどころか力一杯抱き締めてくれて。
千「もう僕を置いていなくなるな。そんなの···万だけで充分だ···」
あの時の千の言葉を思い出して、切なくなる。
千···万理はすぐ近くにいるよ?
姿を消したあの日からずっと、千の事を忘れないでいるよ。
ずっとずっと、百ちゃんと歩き出したRe:valeを応援してるよ。
あの日、万理の部屋で見たRe:valeの足跡を思い浮かべて、夜空を見上げる。
同じ星空の下···こんなにも近くにいるのに、こんなにも遠く感じる心の距離に視界が滲んで行く。
そう言えば、私が万理の部屋で最後に過ごした日の夜も···こんな風に星空が広がっていた。
あの部屋での、最後のわがままを聞いてくれた万理。
扉1枚の向こう側で、あの曲を弾き語ってくれた万理。
いつかまた、万理と千のRe:valeが歌うのを聞きたいと思ってたけど。
多分、それはもう叶わない事だと···分かった夜。
万理にはきっと、その先の未来への可能性を感じていたのかも知れない。
何が正しいやり方なのか分からないまま···その道を選んだんだ。
苦しかったのは、万理も千も同じ···
ひとつ息を吐いて、髪を纏めていたクリップを外して風に髪を遊ばせながら、私はひとり···あの曲を口ずさんでいた。