第5章 ヒカリの中へ
百「ユキ落ち着いて!とりあえずマリーの話を聞こうよ」
千「あぁ···そうね···」
口を付けることなくカップをソーサーに戻した千を見ながら、私は話を続けた。
『研究生ってのは、私が小鳥遊社長にお願いしたの。新しい居場所を作ってくれてありがたい事だとは思ったけど、だからと言ってすぐに、はいそうですかって活動開始出来るような状態ではなかったし』
あの頃は、ほんとに···そういう精神状態じゃなかったし。
『だから研究生、後輩としてみんなと共同生活させて貰ってて。寮のお掃除したり、みんなの洗濯物したり、買い出しに行ったり。そんな時、偶然にも百ちゃんのドラマシーン撮ってる所を通り掛かって、エキストラしませんか?ってスタッフに声を掛けられて、そこで百ちゃんと会って···』
百「あの時はオレも焦ったよ。まさかスタッフが声を掛けてるのがマリーたと思ってなかったからさ。なんか揉めてるみたいだったし、間に入ろうとしたら···マリーだったんだもん」
あの時、もしも百ちゃんが助けに入ってくれてなかったら···今頃はもっと、大変なことになってたかも知れない。
百「オレは撮影残ってたし、マリーは走って逃げるし···だけどダッシュで追いかけて捕まえて、約束···したんだ」
千「約束?」
百「そう。オレが連絡した時は必ず電話に出る、ラビチャした時は必ず返信するって約束してくれるなら、会ったことは誰にも言わない。マリーが話せるようになるまで、待つからって。ユキ···黙っててゴメン。だからユキ、マリーの事は怒らないで?」
『百ちゃんは悪くない。悪いのは私だから、百ちゃんの事は怒らないで?お願い!』
テーブルにおでこが付くほど頭を下げてお願いすれば、それを見て百ちゃんも一緒に頭を下げる。
千「まったく、この2人は。念の為もう1回言うけど、僕は怒ってないから。でも···モモと約束したなら、僕とも約束して?」
『···千?』
千「愛聖が仕事を始めるようになったら、だけど」
『なったら?』
千「僕が作った曲を、歌って?あの時の映画の時みたいに。それが僕との、約束」
差し出された千の小指に自分の小指を絡めると、千は満足そうに、私の指に口付けた。
千「指切り···したからね?」
『約束、守れるように頑張るよ』