第5章 ヒカリの中へ
だいたい僕が愛聖に手をあげるなんてした事···あ、1度だけあった。
あれは、僕の漏らした言葉に愛聖がモモを思って怒り出して···いや、今はその事はもういい。
なかなか入って来ようとしない2人に痺れを切らしてドアノブに手を掛ければ、それはモモがドアを開けるのと同時で。
百「ぅ、わぁ、ビックリした!ユキ、いるならいるって言ってよ!」
「···いる」
百「いま言っても遅いから!」
ドアを開けた目の前に僕が立っていた事を驚くモモの後ろに、表情を曇らせた愛聖の姿が見えた。
やっと···会えた···
百「もぅ、ダーリンったらオレの帰りを待ち切れなかったの?ってコトで···ただいまダーリン!お風呂にする?ご飯にする?そ・れ・と・もハグとかしちゃう?!」
やけにご機嫌に振る舞うモモに、つい···いつもの感じで微笑んでしまう。
「モモ、それを言うのは待ってた僕の方じゃない?そしてお風呂でもご飯でもなく···なにより先に、ハグ希望」
百「ダーリンったら、大胆発言!」
「違うよモモ。僕がいま抱きしめたいのはモモじゃなくて···こっち」
数歩踏み出しモモの体の横をすり抜け、やっとこの手に抱きしめられる小さな体に腕を巻き付ける。
『ッ···千···』
「お帰り、愛聖···また会えて良かった···僕がどれだけ心配したと思ってる?」
『···ごめん···なさい···』
小刻みに体を震わせながら僕の胸に顔を埋める愛聖を強く強く抱きしめる。
「もう僕を置いていなくなるな。そんなの···万だけで充分だ···」
愛聖の体を抱きしめながら、未だ見つからない···もう1人の探し人を思い浮かべる。
万···お前はいま、どこにいるんだ。
何をしているんだ···
音楽はまだ···続けているのか?
何も手掛かりのない、もう1人の···僕の探し人。
また会える日は···来るんだろうか···
百「あ~···お取り込み中すみませんけど、ユキ?ここ玄関で、オレだけまだ通路よ?」
小さな温もりと、柔らかな感触に浸っているとモモが
拗ねた顔を見せた。
「おいでモモ。愛聖と一緒に···抱きしめてあげるから」
片腕を広げて、遠慮なく飛び込んで来るモモごと···また愛聖を抱きしめた。