第5章 ヒカリの中へ
❁❁❁ 千side ❁❁❁
歯痛を耐え忍ぶかのように頬を押さえていたモモが
急に嬉々として支度をしたと思ったら、愛聖が近くまで来てるから迎えに行くと言って出て行った。
···遅い。
近くまでとは言っていたけど、いったいどこまで迎えに行ってるんだ。
モモの行動範囲は広過ぎるから、徒歩5分なのか、それとも徒歩50分なのか分からない。
愛聖の為に作った料理は全部盛りつけを終わらせて、テーブル一面に並べたって言うのに。
この部屋に僕は、一人ぼっちじゃないか。
カラカラと窓を開けてバルコニーから道路を見下ろしたところで、この高さ。
人が豆粒のようにしか見えないんだから、その豆粒がモモや愛聖なのかさえ分からない。
次に引っ越す時は、もっと低い階にした方がいいんじゃないか?なんて、僕らしくない考えを浮かべては乾いた笑いを漏らす。
静かにして耳を澄ませば、廊下を歩く足音くらい分かるか?とも思ったけど、防音壁に囲まれたこの部屋の中からじゃ···それも聞こえるワケない、か。
こんなに気を揉むなら、僕も一緒にモモと行けば良かった。
マンションの外まで行ってしまったらモモ達と入れ違ってしまいそうだから、せめてマンションの前までなら大丈夫だろう。
うん、そうしよう。
エプロンを外してソファーに放り投げ、束ねた髪を解いて玄関へと向かう。
モモはこの部屋の鍵を持っているから、鍵を閉めても問題はない。
部屋の電気は···このままにしておこう。
Shoeboxから靴を出そうと扉に手を掛けると、玄関ドアの向こうに人の気配を感じて伸ばした手を引いた。
百「オレはマリーの味方だから」
モモ?
『怒られる覚悟は、一応出来てるんだけど···』
この声は···
え、待って。
怒られるって、誰に?
いや、この場合は···僕に、か?
愛聖がいなくなった時、確かに怒ってはいたけど。
それは愛聖にじゃない。
愛聖を探し切れない、僕自身にだ。
もしかして愛聖は、僕に怒られると思ってるのか?
だとしたら大きな誤解だ。
まぁ···前にモモに聞かれた時に、誤解を招くような事を言ったのは僕だけど。
思いっきりひっぱたく、とか。
あれは···僕なりのジョークなのに。