第5章 ヒカリの中へ
ガサリと袋を掲げて笑う百ちゃんに、そこまで言われたら百ちゃんには勝てないなと白旗を上げる。
『今度新作出た時には私がごちそうするからね?だから今日は、大人しくゴチになります。あ、でも』
百「ん?なに?」
『千との話が終わってからじゃないと食べられないから、味なんて分かるのかな、とか』
ぽそりと言えば、それに被せるように百ちゃんも軽く息を吐いた。
百「その事なんだけどさ?あ、とりあえず歩こう。遅くなるとユキが拗ねるからさ?」
そっと私の背中を押しながら、百ちゃんが歩き出す。
百「せっかくマリーが電話くれたのに、出れなくて···ゴメン」
『百ちゃんが謝らなくてもいいよ。元々は私が悪いんだし』
それでも聞いて?と百ちゃんは話を続ける。
百「オレさ、収録終わりにトイレ行くの忘れてて、楽屋まで戻ってから急いで行ったんだよ。で、戻って来たら怖~い顔したユキがオレのスマホ握り締めてて」
怖い顔の千···
ヤバイ、想像しただけで卒倒しそう。
百「ユキに壁ドンされて問い詰められたけど、マリーと約束してたし、どこまで黙秘出来るかなって思ってたらマリーからまた着信があって、まぁ、今に至るって感じだけど」
あの電話を掛けた時、妙に緊迫した百ちゃんの感じはそういう事だったんだ。
ますます千に会うのが怖いよ。
『私が最初に百ちゃんに電話したのは、これから先の事を百ちゃんに話したかったからなんだよね』
百「これから先って?」
『詳しくは千と3人揃ってから話すけど、ザックリ言うとね···私、新しい事務所に所属したの。それで、そこで再出発することになって』
万理の事は言えないけど、それ以外の事を少しだけ話すと、百ちゃんは言葉を挟むことなく聞いてくれた。
百「そっか···それって凄くいい話じゃん?!また一緒に仕事出来るかな?!そしたらオレ、もっと嬉しいんだけど!」
『それはどうかな?元々前の事務所を抜ける事になったのも、仕事がなかったからだし···すぐには仕事なんて来ないかも知れないから』
···なんて言ってる内に、とうとう千の部屋の前まで来てしまう。
緊張した顔を覗いた百ちゃんが、ぽんっと私の頭に手を置く。
百「オレはマリーの味方だから」
そう言って百ちゃんは、大丈夫大丈夫!と笑って玄関のドアノブに手を掛けた。