第5章 ヒカリの中へ
「行き先は、分かってるからさ」
ユキがこういう時に足を向ける場所。
そこは···
ユキとバンさんが最後にライヴをした、あの場所。
もしかしたらバンさんがフラリと来るかも知れないとか言って、時間があれば···ユキはいつもそこに行くから。
『ごめんね百瀬くん。私の代わりに···痛かったでしょ?』
心配そうにユキに叩かれた頬に、マリーが手を添える。
「平気!愛のムチだと思えば痛くない!···とは言い切れないけど!」
『百瀬くん、やっぱり痛かったんじゃない···真っ赤になってるし』
少しだけひんやりとしたマリーの手のひらの心地良さを感じながら···今なら、言えるかもとその手に自分の手を重ねてみる。
『百瀬くん?』
「あの、さ?ずっと前から言おうと思ってんだけど。その···百瀬くん、っていうのそろそろやめない?」
『え、だって百瀬くんは百瀬くんだし』
「だーかーらー!ユキの事はユキって呼んでるんだからさ、オレの事もユキが呼ぶようにモモでいいって」
戸惑いを隠せずに俯いたり、何度も瞬きを繰り返すマリーをずっと見つめていると、少し照れながらマリーが笑って···
『じゃあ···百ちゃん、で』
···そう、呼んでくれたんだ。
「やった!なんか超嬉しい!」
ユキと一緒に活動するようになってから、ずっと距離があったように思ってたから。
百ちゃんって呼ばれるだけでもスゲー嬉しくて。
「ありがとう、マリー!」
勢いに任せて、マリーのおでこにチュッと口付けた。
『わっ!!も、百ちゃん?!』
真っ赤になって慌てる顔を見せるマリーがかわいくて、だったらもう1回!とか思ったけど···
姉「ちょっと?うちの大事なお姫様になんてことしてんの!」
『姉鷺さん!違うの、これは···』
怖ーい顔したお姉さん?に見つかっちゃって軽く怒られた。
「マリー、送ってあげたいところだけど今日はやめとくよ。でも、これからはバンさんの代わりに···いつでも、どんな時でもオレがマリーの味方になるからね!」
『ありがとう百ちゃん。だけど、万理は万理で···百ちゃんは百ちゃんだからね?』
ちゃんとオレを見てくれるマリーが嬉しくて、つい···またギュッと抱きしめちゃって、怒られた。