第5章 ヒカリの中へ
百ちゃんとは、ちゃんと話がしたい。
けど今は、多分近くに千がいるかも知れない。
百ちゃんのそばに千がいて、百ちゃんが普通に話せないなら···もう、方法はひとつしかない。
『百ちゃん、そこに···千、いる?』
百 ー ······まぁ、うん ー
私がそう言うと、一瞬息を飲んだ百ちゃんが少しの間を開けてそう答えた。
やっぱり千が百ちゃんに張り付いてるんだ。
『そっか、分かった···千に代わってくれる?』
百 ー えっ?!···でも、 ー
『大丈夫。だから、千に代わって、ね?』
百ちゃんの戸惑いが電話越しに伝わって来る。
何かを言おうとする息遣いが何度か聞こえて来て、それからガサリ、と音がした後に百ちゃんとは違うため息が、ひとつ聞こえてきた。
千 ー ···もしもし? ー
『千、さっきは一方的に電話切っちゃって、ごめんなさい』
千 ー 別にそれに関してはもう怒ってない。今こうやって、愛聖と話が出来る状況にあるから ー
それに関してはって···他のことは怒ってるって事だよね。
『あ···えっと、百ちゃんを責めたりしないで?偶然会っちゃって、それで···私が誰にも言わないで欲しいって言ったから、だから、』
千 ー 愛聖、僕がいま愛聖に聞きたいのはそんな事じゃない。愛聖···今、どこにいる? ー
『ごめん···それは、今は言えない』
千 ー どうしても? ー
千のひと言が、淡々としている事が···凄ーく怒ってるって証明されているけど。
『···うん、言えない』
千 ー それはどうして? ー
『···お世話になってる人に、迷惑かけたくないから、かな』
その答えを最後に、千は何も言わずに黙り込んでしまった。
沈黙が、長い。
自分の部屋のエアコンは適温でついてるはずなのに、つぅ···とこめかみから汗が流れ落ちた。
『あのね、千···実は、』
もうすぐちゃんと話せる時が来るから···そう言おうとしたのに。
大「愛聖、入るぞ?」
二階堂さんの声と同時に、部屋のドアが開けられた。
『返事してないのにドア開けるとか!私が着替えてたらどうするんですか?!』
驚きのあまり電話の途中という事も忘れて小さく叫ぶ。
大「あ、悪ぃ。ま、お前さんの恥ずかし~い姿はもう経験済みだけどな」