第20章 明かされた事実
「おかしな話だと思わない?だって主演決定っていう書類まで出来てたのに、製作者側の急な意向で主演が私からアナタに変更。それだけじゃない、当時の私の事務所の社長がアナタを引き抜こうと働きかけた途端、事務所は資金繰りに困って閉鎖に追いやられ、私は路頭に迷った」
『そんな・・・』
奏音さんが言う話が信じられなくて、言葉に詰まる。
「病気で入院してた母さんに、やっとデビューが決まる。入院費だって払える、そんな矢先によ?お陰で入院費が払い切れなくて資金繰りに困った私は自分を売ってでもお金をかき集めて、なのに、 ・・・間に合わなかった」
『ま、さか』
「えぇ、そうよ。自分に売れるものはこのカラダひとつだけ。だからどんなに嫌だと思う相手からの誘いを受けた。なのに母さんは・・・」
頑張ればいつか認めて貰える日が来る、だから頑張りなさい。
そう言い残して息を引き取った、と奏音さんは涙を見せた。
「小さい頃から母ひとり子ひとりで、貧しくても私の夢のために働き続けた母さんは高額なレッスン費を払い続ける為に病院へも行かず、突然倒れて・・・手遅れだったのに、それでも大丈夫だと言い続けて、笑ってた」
ドクン、と大きく胸が鳴った。
それは私と同じ母ひとり子ひとりの状況下で、娘の夢の為に働き続けて。
自分の体調なんて後回しで、それでも笑って、大丈夫だから頑張りなさい、って。
私と、同じ・・・
『母、さん・・・』
全身から何かが抜け落ちたかのように経つすべを失い壁に全身を預ける。
「アナタが大事にしてるモノを奪おうとしたけど、それも上手くいかなかった。憧れるフリをして近付いて手に入れた連絡先をネットに流してみてもすぐ解決しちゃったし?だからこの業界にいられなくなるようにあの男たちを雇って襲わせたのに、まだアナタはここにいる。だから私は考えたの・・・奪うのが難しいなら、」
ー アナタを壊してあげよう、って ー
ゾクリとする冷たい微笑みを残して、奏音さんは私の横をすり抜け出て行った。
八乙女社長が、奏音さんから仕事を奪った?
奏音さんの事務所を潰した?
どれも信じられないようで、でも、どこかそうであったと言われたら信じてしまいそうで・・・初めて奏音さんの事を怖いと感じた。
鳴り続けたあの明け方の電話。
テレビ局での、出来事。