第20章 明かされた事実
紡「愛聖さん、お疲れ様でした」
とりあえず今日最初の出演を終えた私に、紡さんが笑顔を向ける。
『ちょっと緊張しちゃって・・・ほら見て?今でも指先が震えてるの』
自虐するように手を差し出せば、紡さんはその私の手をそっと包んで大丈夫ですと笑う。
紡「朝の番組なのに、あんなに素敵に歌えていたんです。きっと視聴者のみなさんも愛聖さんの歌声にキュンとなって下さってると思います。そして私もそのひとりですから」
ね?と小首を傾げて微笑む紡さんに、思わず照れてしまう。
なぜ、紡さんはこんなにも可愛らしく微笑むんだろう。
アイドリッシュセブンのマネージャーにしておくのは勿体ないと社長は思わないんだろうか?
・・・思わないんだろうなぁ、これがまた。
だって社長は、先立たれた奥様にそっくりな紡さんをお嫁に出すまでは独り占めしたいんだって以前笑いながら言っていたから。
紡「次の番組まで少し時間がありますから楽屋に戻りましょう。衣装替えもありますし、それに合わせてヘアスタイルやメイクをお直しする時間も必要でしょうから」
預けていたミネラルウォーターのペットボトルを受け取り、緊張からの喉の乾きを潤すと落ち着いた事もあり・・・
『紡さん、楽屋に戻る前に追加のお水買ってくるのお願いしてもいいですか?私はその間にお手洗いに寄ってから戻りますから』
気が緩んだ訳では無いけれど戻りながら手洗いに寄りたいからと申し訳ないながらも買い物をお願いして2人違う方向へと歩き出す。
社長と一緒の時なら先に纏めて買ったりもしてたけど今日は勝手が違うし紡さんに使い走りをお願いするとかホント申し訳ないなと思いながら、せめてお昼ご飯位はご馳走しようと考えつつ見慣れた女子マークの扉を押し開けば。
『あっ・・・』
少し久しぶりに見るその姿に思わず小さく声を出す。
「おはようございます、愛聖さん。朝早くからの番組出演、お疲れ様です」
『奏音、さん・・・』
まさかここで顔を合わせるだなんて予想もしていなかった相手を見て、千たちから心を許すなと何度も念を押されていた事を思い出し身構えてしまった。
「あはは、そんなに警戒しないで下さいって。私、愛聖さんに何かしました?」
『そうじゃなくて、ちょっとここでバッタリだとか、びっくりしちゃって』