第19章 魔法のコトバ
『取れたぁ。うわ、ホントに階段ギリギリだったんだ・・・危な、っとと』
自分が置かれていた立場を確認しながら呟く佐伯さんが私を見て咄嗟にその口を押さえて黙る。
「分かりましたか?これだけ危ない事をしていたんですよ佐伯さんは」
『はい、ホントごめんなさい』
「分かって頂けたなら私はもうそれ以上言いません。それから、さっき話の中にあった映画出演を迷ってると言うことですが・・・」
事の発端は確かそれだったと思い返しながら佐伯さんに話を続ける。
「迷うだなんて、あなたらしくないのでは?いつもならスケジュール埋めたいだとか言って、言うなれば手当り次第に体当たりしていたのでは?ドラマ撮影と被ってしまうからと言っても、前の、八乙女プロダクションにいた頃はそんなの日常茶飯事だったんじゃありませんか?もし、そこで撮影時期が被ってしまう事に尻込みしているのなら、嫌な言い方にはなりますが、佐伯さんはこちらの事務所に移ってから手ぬるくなったのでは?」
『それは・・・』
「あなたを甘やかしたい人間がいるのも分かります。Re:valeのおふたりや、TRIGGERのメンバー、それに大神さんも。ですが、厳しい状況に置かれているからこそ、その方々は束の間の甘さを与えてくれているのでは?もちろん、ここにいるみんなもです」
常に前向きに顔を上げて頑張る姿をこれまでも幾度となく見てきたからこそ、厳しい事を言ってしまう。
『ここにいるみんなもって、それは一織さんもですか?』
「なっ・・・いきなり何を言い出すんですか!」
『だって、みんなもって言ったら一織さんもかな?って』
「まぁ・・・そうかも知れませんね、あなたが頑張り屋だって事も知ってますから」
三「照れんなって、一織」
「そんなんじゃありませんよ!とにかく今後はこんな危ないチャレンジは御免ですからね」
言うだけ言って逃げるようにその場から離れ自室へと戻りドアを閉める。
ホントに、あれはズルいですよ。
私との身長差があるとは言え、あんな上目遣いで覗き込むだとか!
さっきとは違う鼓動の速さに手を当てながら、全くあの人は年上なのに手がかかる・・・と大きく息を吐く。
そんな手間さえ心地よいと思ってしまうのは佐伯さんの魅力なのかも知れませんが、と、また息を吐いた。