第19章 魔法のコトバ
❁❁❁ 一織 side ❁❁❁
学校の課題も終わり、明日の準備も忘れ物のチェックを済ませた。
四葉さんも今回はちゃんと自分で課題を終わらせたようですし、心配はいらない。
とは言え、後で明日の準備や忘れ物がないかを確認しておかないと。
あの四葉さんですからね。
逢坂さんにばかりお願いしているのも、逢坂さん自身に用があったら負担が大きくなりかねない。
また心労を重ねてしまっては、前のように倒れたりしかねませんからね。
やれやれ、と小さく息を吐き、今日は兄さんも家事が忙しいだろうから手伝いをと部屋を出れば、廊下を壁伝いにソロソロと歩く佐伯さんの後ろ姿が見える。
何をしているんでしょう佐伯さんは。
わざわざ壁伝いに歩くだなんて、どこか具合いでも悪いのだろうか?
そんな事を考え、声を掛けてみようと1歩を踏み出すとその後ろ姿は何気なく振り返り、その容貌に瞬きを忘れてしまう。
なっ・・・何故あんな事を?!
その姿はタオルや紐のようなもので目隠しを施し、振り返りながらも方向がよく分かっていない様子が伺える。
一体何をしている・・・
そこまで考えながら佐伯さんが階段へと体の向きを変えてしまった事に気付く。
そのまま進めば、その先は階段ですよ!
『え・・・あれ・・・?』
それまで続いていた壁と廊下が途切れ、不安定な体制のまま階段へと進み出す佐伯さんを見ると、慌てて自分の部屋のドアを閉めることも忘れ駆け寄り咄嗟に体を引き寄せた。
「危ない!・・・こんな所でそんな目隠しをして歩くなんて何を考えているんですか!」
『その声は、一織さんですね?』
「一織さんですね?じゃありませんよ!あなたはここで何をしているんですか!危ないでしょう、こんな目隠しをして寮内を歩き回るだなんて、私がいなかったら佐伯さんは今頃ここから落ちて大ケガをしていたんですよ!」
1歩遅ければと捲し立てる様に言うと、佐伯さんはやっと自分が置かれていた状態に気が付いたのか、ここ階段だったんだ・・・と、未だ自分の体を引き寄せたままの私の腕をキュッと掴んだ。
そ、その掴み方は・・・カワイ・・・じゃなくて!
「とにかく1度こちらに移動しましょう。それから危ないのでその目隠しを外して下さい」