第19章 魔法のコトバ
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
小「ただいま万理くん」
他の事務員たちをきっちり定時で帰した後、明日でも構わない仕事をしながら社長と愛聖の帰りを待っているとドアの向こうから社長の声が届き振り返る。
「お帰りなさい社長。今日も皆さん定時で上がって貰いました」
部屋を軽く見渡すように視線を流す社長に言えば、社長は安堵の息を漏らしながら定時で帰れる会社を心掛けているからねと笑みを浮かべては、またすぐに難しい顔を見せた。
「コーヒーでもお飲みになりますか?」
そう言って立ち上がろうとする俺に社長はそれを手で制して歩きながら俺の横の席へと腰を下ろした。
「何か、あったんですか?あ、もしかしてまた愛聖がとんでもない思いつきやわがままを?」
困った顔を隠そうともしない社長に問えば、その答えは予想を斜め上の言葉で。
小「万理くん、愛聖さんがテレビ局で襲われた事だけど」
「もしかして何か進展が?」
小「彼女が、出掛けた先で見掛けたそうだ」
「見掛けた、って」
声にならないほどの小さな呟きに、社長はただ黙って頷いた。
小「その話を聞いて、僕は警察にと思ったんだけどね。それを提案したら彼女は被害を受けた訳じゃないから大丈夫だって頑なに」
「被害は、受けてるじゃないですか。あんなに怖い思いをして、たくさん泣いて。それに髪だって」
あの出来事の前まで目に馴染んでいた髪を思い浮かべ言葉に詰まる。
「僕も説得はしたんだけど、あまり無理強いするのも彼女の今後に影響してしまったらと思うと、それ以上は。だから、もし何か起こるような事があったら僕は全力で彼女を守る腹は括ってる。八乙女とも約束しているし、何より自社のタレントを守るのは社長の務めだ」
「そう、ですね。もちろんその時は俺も俺に出来る事はするつもりです」
いざとなったら、自分の身を投げてでも守ると決めたから。
それはきっと前事務所の八乙女社長も、今の小鳥遊社長もきっと同じだろうけど。
八乙女社長・・・も?
そう言えば前から気になっていた事がある。
八乙女社長はなぜ、移籍して居なくなった愛聖の事を今でもフォローする様な事を続けているんだ?
以前の八乙女プロダクションのやり方であれば、退社したり引退した自社タレントを気にも止めていなかったはずなのに。