第19章 魔法のコトバ
楽「それだけ元気になるなら、いくらでも親子丼作ってやるよ。だからお前はいつでもアホみたいに笑ってろ」
アホみたいにとか失礼だけど!と返しながら2人揃ってお店に出れば、店内は本当に常連さんだけになっていて外から暖簾を持って入ってきたおじいちゃんに駆け寄った。
『ご心配お掛けしてすみませんでした。今から片付け頑張りますね!』
「お?もう貧血だとかってのはいいのか?後は片付けだけだし、まだ休んでてもいいぞ?」
『そういう訳には行きません。ちゃんとお仕事しないと美味しい賄い取り上げられちゃうもの』
小さく肩を竦めて笑えば、おじいちゃんは店の料理以上に賄いは腕を振るわねばならねぇなと笑い返してくれる。
『やったぁ!あ、でも賄いは楽が準備始めるって言ってて』
チラ、と調理場に目をやりながらこっそり言えば、その目線の先では小忙しそうに楽が右に左にと動いていた。
「なんだぁ、楽に先を越されちまったか…んじゃ、アレだ。今度ウチのヤツとがくには内緒で甘いモンでも食いに行くか?って、急に寒気が・・・」
私の背後を見たおじいちゃんが顔色を帰るのを見て私も振り返ると、そこには明らかに目だけ笑っていないおばあちゃんが仁王立ちしていた。
「アンタねぇ、ウチみたいな小さい蕎麦屋に遊び歩く暇があると思ってんのかい?ほらほら、さっさと働く!貧乏暇なしって言葉は知らないのかい!」
「お、おぅ・・・」
あからさまに身を縮めるおじいちゃんに笑いながら、私もおじいちゃんと目線を合わせるように屈んで内緒話をする。
『おじいちゃん、甘いもの・・・プリンなら凄く美味しいのがあるんです。今度差し入れしますから、その時に一緒に食べましょう?おばあちゃんも、楽も一緒に、ね?』
「それじゃ、その時まで長生きしとかねぇとだな」
2人でクスクスと笑いあって、早く片付けないとばぁさんのカミナリが落ちるってもんだと言うおじいちゃんに手伝って後片付けを始めると、甘いお出汁の香りが漂い始めて、賄いを待つ私のお腹が一段と騒ぎ出した。