第19章 魔法のコトバ
その顔はまだ蒼白したままで、どこが大丈夫なんだかとため息を飲み込み、店が暇なら暇でほっときゃいいんだと返し、ぽんっと頭に手を置く。
「それよりお前、あの客と何があったんだ?まさか正体バレて何か言われたのか?」
お互いに芸能人だということを隠して店の手伝いをしていた事を言えば、別にそういう訳じゃないんだと小さく首を振った。
『大丈夫、だよ』
「そんな顔してて大丈夫なワケねぇだろ。話せるなら俺に話してみろ。それともアレか?俺に話したところで意味がないとでも思ってんのか?」
意地の悪い言い方だなと思いながらも愛聖の顔を見れば、困惑しながら何度か瞬きをして、その視線は俺の顔をまっすぐに見た。
『さっきの人・・・だけど、もしかしたら、あの時の・・・』
「あの時?」
途切れた言葉を繋ぐように聞き返せば、まるで自分を防御するかのように愛聖は自分の体に両腕を巻き付けた。
『テレビ、局の・・・楽たちが、助けてくれた・・・』
そこまで聞いて、おもわす愛聖の肩を掴む。
「お前を襲ってきたヤツらがアイツだったのか?!」
『ハッキリとは分からない・・・明るいところで顔を見たわけじゃないし。でも・・・床に押さえ込まれた時に、ここに2つ並んだホクロみたいのが見えて』
微かに震える指先で自分の顎の裏を指す愛聖を見て頭も気持ちも爆発しそうになる。
「今ならまだその辺にいるはずだ。とっ捕まえてやる!」
吐き捨てるように言って踵を返せば、グッと引かれる腕になんでだよと声を荒らげてしまう。
『そんな危ないことするのはやめて!何かあったら楽だけじゃなくて、このお店も、それにおじいちゃんたちにも迷惑がかかっちゃう!』
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇだろ!だってお前は」
『お願い、楽・・・行かないで』
掴まれた腕から伝わる不安と躊躇いなく零れ落ちていく大きな雫に、あっさりと毒気を抜かれてしまう。
「・・・分かった、どこにも行かねぇよ。お前の気が済むまでずっとそばにいてやる。だからもう、泣くな」
震える小さな体を抱きしめながら言って、柔らかい髪に顔を埋める。
居合わせたのが他の誰でもなく俺で良かったと考えながら、何度も、何度も、その背中を撫でた。