第19章 魔法のコトバ
楽に助けを求めようと思っても、ここに楽が来れば佐伯 愛聖を知ってるような人なら楽の素性もバレかねない。
けど、だったらどうしたらいいのだろうと思いながら、微力ながらもその人の腕から抜け出そうと藻掻く。
「おい兄ちゃん、その辺にしとけや」
逃げる方法が見当たらず大声を出すしかないと決心した時、伸びてきた手がその人の腕を掴んで引き剥がした。
「なんだよジジイ。部外者は入ってくんなよ。それとも何か?アンタもこの女とイイコトしたいのか?さっき体撫で回してたしなぁ?」
その言葉にお客さんの背後を見れば、そこには常連さんのおじいちゃんがいて。
「イイコトなんかこの歳になればし尽くしたってもんさ。それにさっきのはなんてこたァねぇ、挨拶みたいなもんだ。けど兄ちゃん、アンタのは違う。アンタのそれは警察呼ばれてもおかしくないやつだ・・・それとも、呼ぶか?」
ニイッと笑いながら常連さんが携帯をポケットから出すと、お客さんは急にそっけない態度になって私を解放して突き放したせいで私は後ろへとよろめいた。
楽「っぶねぇ・・・おい、大丈夫かお前」
転びそうになる前に楽が支えてくれたおかげで、よろめいた体は傾くことなく終わったけど、お客さんは不機嫌な顔を見せながら、楽がいるのをお構い無しに私の耳元へと顔を寄せる。
『やめて下さい』
「もうちょい遊べると思ったのに、つまんねぇヤツ···」
背中に楽の存在を感じながらも身を引こうと、抵抗の言葉を発しながら1歩下がる私に届いたのは、普段ならなんでもない様な言葉なのに体が拒否反応して、思わずお客さんの胸を強く押し返した。
「んだよ、ちょっとからかっただけだろっての」
『ごめんなさい・・・つい、力が入ってしまっ、』
こんな状況でも、お客さんになんて事をしてしまったんだと謝りながら見上げた先に、息が止まる。
『う、そ・・・なんで・・・』
一瞬にして、体中の血液が凍っていく感覚に自分の体を抱き締める。
お客さんの喉元には、あの時テレビ局で起きた出来事で見た、ふたつ並んだ小さなホクロがあった。