第19章 魔法のコトバ
「勘定」
『はい、いま伺います』
1度手にしたテーブル補充セットを置いてレジへ向かえば、グループの中のひとりが全部自分が払うからと他のメンバーへと胸を張っていた。
「マジか?全額奢りならキャバとか奢れよ、金入ったって言ってたじゃん?」
「っせーな、金が入ったからってキャバ遊びなんかしてたらアシがつくだろ」
「だよな?なんたってオレら2人が危ねぇ橋渡ったんだしよ」
そんな会話の内容に・・・なんだか意味深な会話だと思いながらも会計処理をして代金の受け渡しを済ます。
『ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております』
不穏な会話に巻き込まれないようにしながら、ごく普通にやり取りを終えれば、お金を払った人が私の顔を見てニヤリと笑った。
「アンタ、佐伯 愛聖に似てるって言われねぇ?」
『そうですか?自分じゃあんまり分かりませんけど』
この程度の会話なら、前にも常連さんに言われて軽く交わした事もある事から難なくその場を凌げると思った。
「いや似てるって。まぁもっとも向こうはこんな蕎麦屋じゃなくて華々しくも毒気たっぷりの世界で生きてるんだろうけどな?なんたってあの女優は、」
「おい、やめとけって。お前飲み過ぎて酔ってんだろ・・・悪いな、コイツ酔っ払っててワケ分かんねぇから」
『あ、いえ、大丈夫です』
絡みかけた人を私から遠ざけようと引っ張りながら、もうひとりの人が私を見て何度か瞬きをした。
「いや、でもホントに似てるよな?ソックリさんだとしたら儲けもんってやつ?な、連絡先交換とかしちゃわねぇ?」
「抜け駆けすんなよ。オレが先に見つけたんだぜ?連絡先交換ならオレが先だろっていうか、いっそこのまま一緒に店出ようぜ?」
『そ、そういうのはちょっと』
困ります、と言うより先に、その人は私の腕を掴んでグイッと自分の方に引き胸元へと私を押し付けた。
『あの!お客さん困ります!』
目眩がするほどの見知らぬ香水の香りと、むせ返るような煙草の匂いに慌てて離れようとすればするほど、抱き込める力は強くなり、そして・・・
「いいじゃん?この後オレたちと順番にイイコトしようぜ?」
耳元に届けられる、不純な言葉の羅列。
『や、めて下さい・・・離して・・・』
ツゥ、と背中を指先で撫でられて、気味の悪い感触にゾクリとする。