第19章 魔法のコトバ
残りの食器を洗いながら店内を覗き見れば、お客さんはいつもの常連さんと、あとはふたつのテーブルに1人ずつの個人のお客さん。
それから、お蕎麦屋さんには珍しい若い男の人が4人ほどの小グループのみとなっていた。
あんな感じのメンバーなら、お蕎麦屋さんよりもファミレスとかの方が合ってそうな気もするけど、このお店のお客さんには変わりない。
丼物とお蕎麦のセットが4人分に、お酒も飲んでいるってなると・・・あのグループが帰ったら、また洗い場が満タンになっちゃいそうだなと思いながら、最後に手をつけたグラスを濯いで水切りカゴへと伏せた。
「戻ったぞ。お、楽も戻ってたのか」
『お帰りなさい、おじいちゃん。って、びしょ濡れじゃないですか?!』
配達用のジャンパーから落ちる雫を見て慌てて駆け寄り、手で払い除けながら楽に早くタオルをと声をかける。
「帰る途中で急に降ってきやがって、参った参った」
『そんな呑気な・・・風邪ひいたら大変ですよ』
楽「こいつの言う通りだ、ほらタオル。いまは注文入ってねぇし、着替えるくらいは大丈夫だろ」
「そうね。びしょ濡れだし早く着替えた方がいいわ。楽、ちょっと店の中のことを頼むね」
楽からタオルを受け取ったおばあちゃんがおじいちゃんに渡しながら奥の部屋へと背中を押して歩いていく。
『大丈夫かな、おじいちゃん』
楽「前に大丈夫だって言い張って風邪拗らせた事があるからな。そんときゃばぁさんにスゲー怒られて反省したし、今回はちゃんと言うこと聞くだろ」
風邪拗らせたって、それは大事だったんじゃ?と返せば、楽は何も言わずに肩を竦めて見せるだけだった。
『とにかく今は、おじいちゃんたちが戻るまで私たちで店番しないとだね?』
楽「ま、新しい客は来てねぇし、どうとでもなるだろ。常連はほっときゃ勝手にやってるし、他はもう飯食ってんだし・・・と、ヤベ、俺は火加減の番するから洗い物やってろ」
話しながら楽が出汁を沸かしてる鍋の火を調整して灰汁取りに集中し始める。
洗い物って言われても、さっき終わっちゃったからなぁ。
空いたテーブルに割り箸でも補充して来るかな?と店内を覗いて楽にそれを伝え、補充セットを取り出した所にちょうどグループ客が伝票を持って立ち上がった。
『会計が来るみたいだから、私が対応するね?楽はそのままお鍋見てて?』