第19章 魔法のコトバ
そんな微妙な空気に包まれながら、なんの話しだったかな?ととぼけるも、楽は私の鼻先を摘んでムニムニと動かせば、おばあちゃんがその手をチョンと払って楽を見る。
「そんなのアンタしかいないだろ?まったく楽は不機嫌になると宗助さんにそっくりな顔をするんだから。あ~ヤダヤダ、ねぇ?愛聖ちゃん?」
楽「なっ・・・ふざけんな、俺とアイツは全然似てねぇよ」
チッ、と軽く舌打ちをする楽は、おばあちゃんの言うように八乙女社長と同じ不機嫌顔を垣間見せて、フン、と鼻を鳴らす。
いや、そういう所・・・確かに似てる。
これってきっと八乙女社長に、楽が不機嫌な時は八乙女社長に似てますよって言ったら同じようにするんだろうなと思い浮かべると、いっそ隣同士に並んだらお互い認めるんだろうかと想像しては、込み上げてくる笑いを堪えながら手渡された下げ膳を洗い場へと入れて汁ものを用意した。
楽「お前・・・後で覚えてろよ?」
『さぁ?もう忘れました』
そんな私を見てまたも不機嫌な顔を見せる楽に笑って言って、おばあちゃんが仕上げた料理をお膳に並べて提供の用意をした。
「今のところ忙しくはないし、これは私が持っていくから大丈夫よ。代わりにって言ったら悪いけど、楽が持ち帰った洗い物をよろしくね」
『はい、もちろんです。あ、そうだ楽?さっきおじいちゃんがね、楽が戻ったらこれ渡して休憩させといてくれって』
冷蔵庫に用意された私と同じオレンジジュースを出すと、楽はそれを受け取ってグラスに入れることなく瓶に口を付けて一気に飲み干した。
楽「相変わらず子供が好きそうな甘いジュースだな。また常連の伝票に付けてんだろ」
『瓶のままとか、お行儀悪い。せっかくのジュースなんだからグラスでゆっくり飲めばいいのに』
やれやれとため息を吐けば、楽は飲み干して空になった瓶を軽く濯いでケースへと入れた。
楽「さて、と。今のうちに俺も仕込み始めるかな」
『仕込みって言っても、もう少ししたらお店も閉まる時間なのに?』
チラッと時計を見て言えば、楽は手を洗いながら店の仕込みじゃねぇよと言った。
楽「店が終わるなら、俺らも仕事が終わるって事だろ?だから、賄いの仕込みだよ」
『それなら、私も手伝う』
楽「やめろ、じいさんの店が爆発する」
即答する楽を失礼ね!と肘で押し、スポンジに洗剤を押し当てた。