第19章 魔法のコトバ
「すまねぇな嬢ちゃん。普段はいい奴なんだか、どうも酔っ払うとアレだよ。さ、今のところ店も落ち着いてきたし、これでも飲んで休んでくれ」
はいよ、と手渡されたのはお店で出してる瓶に入ったオレンジジュースで、いいんですか?と聞くとチラリとおばあちゃんを見てから、人差し指を口元に当ててシーっと言いながら笑った。
『おばあちゃんに後で怒られますよ?』
「大丈夫。怒られそうになったら、あの常連の伝票に付けちまえばいい。嬢ちゃんへのセクハラ迷惑料だって」
『それはそれで、なんだか悪いような気もしますけど』
「気にすんなって。楽が子供の頃はそんなこたァ頻繁だったしな。アイツもそれを嬉しそうに飲んでたし」
そう話すおじいちゃんに、それならゴチになりますと笑い返して、子供の頃の楽がオレンジジュースを嬉しそうに飲む姿を想像して、楽にもそんな可愛らしい子供の頃があったんだなと口元を緩ませながら甘く懐かしさを感じる味を堪能した。
おじいちゃんから貰ったオレンジジュースを飲み終わり調理場へ戻れば、配達が重なっていた事もあり楽とは別のお客さんの所へ配達に出ているおじいちゃんの代わりに、おばあちゃんが丼物を作る姿があった。
『すみません、私ばっかりゆっくりしちゃって。お手伝いします!』
「いいんだよ、これくらい私だけでも回せるから。それより、せっかく手伝ってくれるならじきに仕上がるから汁物を用意してくれるかい?」
『はい!こぼさないように頑張ります!』
調理は壊滅的な私でも、さすがに作り置きしてあるお味噌汁をよそう事くらいは出来ると小さくガッツポーズを見せれば、おばあちゃんは卵をかき混ぜながら楽しそうに笑う。
「こぼす心配はしてないけど、ヤケドには気を付けてね?じゃないと楽が鬼のような顔で怒り出すから」
パチン!と片目を瞑ったおばあちゃんは、なんだかちょっと可愛らしく思えてしまって私もつられて笑う。
「誰が、鬼のようだって?」
背後からの声に私もおばあちゃんも驚きながら振り返れば、ヘルメットを外して髪を手櫛で直す楽が立っていた。
『お帰りなさい、楽』
楽「おぅ、ただいま。で、誰が鬼のようなんだ?」
配達の帰りにお禅下げをした食器を私に渡しながら、楽が顔を覗く。
『あ、はは・・・』
楽がそこまで言うのは話を聞いてた事になるけど、さすがに言えない。