第19章 魔法のコトバ
楽「本当に急に頼んで悪いな。今度埋め合わせするから」
『超絶凄いの期待しとく。あ、回ってないお寿司屋さんとか行きたいなぁ』
楽「任せろ、連れてってやるよ」
楽の返事にやった!と喜びながらお蕎麦屋さんの勝手口を開ければ、早々に賑やかな店内の声が届く。
楽「なんだって今日はこんなに客入りが多いんだか。それに配達も多いし」
『繁盛してる方がいいじゃない。それに私、ここの親子丼の味好きだよ?』
楽「蕎麦屋なんだから蕎麦食えよ」
『いいじゃん別に!あ、おじいちゃんお邪魔します』
楽から渡されたエプロンを受け取った時にお店から食器を下げて来たおじいちゃんと顔を合わせる。
「おぉ!嬢ちゃん来たか!」
楽「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「いつだって若くて可愛い子が来たら、そりゃ嬉しいもんだろ?」
楽「・・・近いうち、腕のいい眼科医を探してやるよ」
『ちょっと楽、それどういう意味?』
楽「さぁな」
フン、と鼻で笑う楽の胸をひとつ叩き、それじゃ早速お手伝いしますとおじいちゃんを見て、今にも溢れそうな流し台の前へと移動すれば下げ膳を持ったおじいちゃんが隣りに並んだ。
「悪いな嬢ちゃん。せっかくのんびりしてたんだろ?それをうちの店の手伝いを頼んじまって」
『困った時はお互い様ってやつです。それに今回もちゃんとお許しを得てますし。だから私は全力で洗い物を頑張るだけです』
ジャーン!と泡立てたスポンジを掲げれば、おじいちゃんはそれを見てそれは頼もしいなと笑って目尻を下げた。
「店の中は婆さんが何とか回すから気にせんでいい。今日もいつものヤツらがいつもの席で呑気にビール飲んで笑ってるしな。嫁入り前の嬢ちゃんを悪い虫がベタベタ触っちまったら悪いしな」
前回のお手伝いの時を言っているのか、おじいちゃんはアイツらも若い娘となるとちょっかい出して全くもってけしからんと言ってはネギを刻み始める。
「けしからんのはアンタも一緒。愛聖ちゃんの横で鼻の下が伸び放題じゃないか」
配膳から戻ったおばあちゃんが男はコレだからしょうもないだなんて笑って、薬味を刻むの代わるからアンタは早くお蕎麦茹でなさいなと私とおじいちゃんの間に割って入った。
そこからは手際よく小気味良い音をさせながらネギを刻むおばあちゃんと談笑しながら目の前の洗い物を片付け始めた。