第19章 魔法のコトバ
シャワーを浴びてザッと乾かしたばかりの髪を軽くまとめ、手早く簡単メイクを済ませて玄関へ向かい、私をお店まで送るからと待っていてくれた社長と一緒に玄関を出た。
小「彼らのいる手間、大っぴらに許可出来ないから今回限りだとは言ったけど、社会勉強として頑張って来なさい。こうしたちょっとしたお手伝いが、今後何かに役立つ時もあるだろうからね」
『ありがとうございます。でも、大丈夫でしょうか。四葉さんがどこに行くのか、何時に帰るんだ?って気にしてましたけど』
小「その辺は大丈夫だよ。飛び入りで入った演技レッスンだって話してあるから気兼ねなく蕎麦屋の看板娘を演じて来なさい。あ、でも不意打ちのボディタッチには気をつけてね?」
以前のことを思い出しながら社長が言って、私もそこはホントそうですよねとため息を吐けば、社長はあの女将さんの目が光っているなら心配いらないかも知れないけどねと笑う。
小「さぁ、着いたね。僕はこのまま事務所に戻るけど、終わったら連絡しなさい。僕がキミを迎えに来るから」
『はい、精一杯おじいちゃんのお手伝いを頑張って来ます』
大きな笑顔で小さくガッツポーズをして見せたところで、配達に出ていた楽がちょうど戻って来た。
『お帰りなさい、遅くなってゴメンね』
楽「いや、急な事を頼んだのはこっちだから気にすんな。それから、あの・・・」
バイクを停めてヘルメットを脱いだ楽が、私の後ろにいる社長へと姿勢を正す。
小「こんばんは、お蕎麦屋さんの配達員さん」
楽「・・・え、っと?」
自分がTRIGGERの八乙女楽である事を知っているはずの社長の言葉に楽は一瞬目を丸くするも、社長は何も気にせずに話し続ける。
小「今日は随分と大忙しのようだね。それは客商売だからいい事ではある。今は余計な事は考えなくていいから、うちの娘を宜しく頼むよ」
楽「あ、はい。それはもちろんです」
小「それじゃ僕はも戻るから、しっかりね」
ぽんぽんっと私の頭に手を置いた社長がそう言って私の顔を覗いては、そのまま踵を返し歩いて行く。
『行ってきます』
うちの娘、と言われた事に対して胸の内が擽ったい気持ちもあったけど、まるで紡さんに話す時のような表情を見せる社長に私も同じようにそれを返して社長の背中を見送った。
楽「そろそろ中、入るか」
『そうだね。今日も頑張るね』