第19章 魔法のコトバ
『で、どうしたの?』
通話の向こうでクスクス笑う愛聖に一瞬無言になりかけながらも、店の賑やかさに軽く振り返りながら用件を伝える。
「時間がないから単刀直入に言う。お前、いま暇か?」
『暇、って言うわけじゃないけど・・・まぁ、予定のスケジュールはちょうど終わったところだよ?』
予定って、仕事だったのか?
仕事終わりなら仕方がないなと言って、なんでもねぇよと返せば愛聖は仕事じゃなくて寮のレッスン場を使ったから掃除してるだけだと笑う。
『だから、この後ならゆっくり話聞けって言うなら大丈夫だけど』
「例えば、だけど。お前、爺さんの店に来る事はできるか?」
『おじいちゃんの?』
「あぁ、ちょっと人手が欲しくてな。配達はオレが出れるけど、それ以外が手が回んねぇんだよ。けど、そっちの事情もあるだろうし無理にとは言えないけど」
電話越しに感じる些か困惑した様子にやっぱりダメだよなと諦めかけた時、このままちょっと待っててと言われ、小声で誰かと話す愛聖を感じた、直後。
『大丈夫。社長が職業体験して来なさいって言ってくれたから、ダッシュで身支度したら行くね』
「いいのか?」
『うん。今回は特例だよって、社長が』
そうか、あの社長。
オレの正体を知ってて店に来たこともあったな。
「分かった。それまではなるべくオレも店を手伝うから。あ、と・・・その、愛聖・・・サンキュ」
いつになく小声で伝えれば、愛聖は指名料は高いからね?と笑ってから、じゃあ後でと電話を切った。
お前が来てくれるなら爺さんも喜ぶし、そんな指名料なんていくらでも払ってやるさと顔が緩みそうになる。
「楽、悪いがまた出前頼む。それから、嬢ちゃんはどうだったか?」
出来上がったばかりの蕎麦をおかもちに詰めながら言う爺さんに、身支度したら来てくれると伝えれば、それはもう嬉しそうに目を細めた。
「そうか!じゃあ今日の賄いはスペシャルコースを用意してやるからな。ほら楽、配達配達」
ご丁寧にヘルメットまで押し付けながら言って、爺さんがまた調理をする為に戻る。
ったく、どんだけ愛聖がお気に入りなんだよ。
そう零しながらも、爺さんと同じように浮立ってしまう気持ちを押さえる為に、声を大きく配達行ってくると調理場へと声をかけた。