第18章 Return to Myself
何もないならあそこまで慌てる必要はないんだろうしと思えば、流れたままの映像からは驚きの会話が飛び出した。
千「今日だけでここまでちゃんと出来るだなんて、さすが元八乙女プロダクション社長が直々に色んな事を勉強させてただけの推し女優でもあるね」
『何言ってんの急に。百ちゃんが分かりやすく教えてくれたからだよ?』
千「それもあるけど、この前の曲のもちゃんと覚えてる?何となくノリでやってみたあの曲、ほら、あぁ、あった・・・これ」
画像の中の千がパソコンに映し出した映像には、今さっきのとは別の曲を歌いながら踊る愛聖と、それに合わせたダンスを踊るRe:valeがあって。
大「まだ曲、あるんじゃん?」
それを見た大和くんがメガネを指先で押し上げては怪しげな輝きを放つのを見て愛聖の顔色が変わる。
『そ、それは無理!絶対無理ですからね!だってさすがにこれは映像だけに合わせるとか出来ないし、相手がいないとダメなやつっていうか、無理!ホント無理!』
大「相手、ねぇ・・・よし分かった。ここはダンスに関して飲み込みの早いタマとイチ、それからスローステップなダンスならそこそこ身に付いていそうなナギとソウで何回か映像見ればカタチにはなるだろ?って事でタマ、愛聖をとっ捕まえて逃がすな」
環「ぅす!」
『え?あ、ちょっと四葉さん?!』
一「二階堂さんはまた何か企んでいるようですね」
薄暗い部屋でも分かるほど眉を寄せる一織くんが小さく息を吐きながらも、流れていく映像からは目を離さずに見続けている。
俺も一緒になって見ているけど、ポップでキュートな感じのさっきの曲とは違って、どこか悲しげなスローテンポなメロディーと共に表現する愛聖がいる。
表現力は女優業をしているだけあって文句の付けようがないってのは分かるけど。
それよりもなんで千も百くんもそんなにノリノリでバックダンサーなんてやってる?!
これはいよいよ社長と予算を弾き出す頭痛に悩む日が来るのか?なんて早くも背筋を冷やしながら、映像の向こう側で素で楽しそうに笑う千からも、俺は目を離せなかった。