第18章 Return to Myself
『ね、百ちゃん?千が言ってるボイトレ以外の事って?私なんにも聞いてないから、もしかして準備しておかなきゃいけない物とかあったら千また機嫌悪くならない?』
「それは大丈夫。着替えが必要ならオレか千のがあるし、それにユキはそういうのもう準備してるはずだから」
『それならいいけど。でもなんで千は先に教えてくれなかったんだろう。百ちゃんは知ってたの?』
「え?あー・・・アハハ」
ユキが内緒にしてるのに、オレが言えるわけなくね?
だってあんなにノリノリで小鳥遊社長と電話で極秘の打ち合わせしてたし。
それにさ?
まだ落書き程度だけどってユキにそれっぽい衣装のラフ画見せられた時、まさかあんなラブリーなのを見せられるとは思ってなかったし。
あの時に見た衣装のラフ画が現実になったら、きっとそれを着たマリーは似合うだろうなぁ。
適度な露出と、ふわふわフリフリな姿を想像するだけで、なんかワクワクドキドキして鼻血まで出そ、う・・・て、あれ?
ムズムズする鼻をスンとすれば、記憶の奥にある鉄錆のような匂いが広がっていくのを感じて指先で花を触れば、いままさに予想していたものがツゥっと流れ出す。
「うわっ、マジかよ!」
『え、百ちゃんどうしたの?・・・わわっ、大変!千、岡崎さん!百ちゃんが、急に鼻血出してるよ!』
慌ててバッグからティッシュを出してマリーがそれをオレの鼻に押し当てる。
千「モモ、いろいろ溜めすぎなんじゃない?ヤラシイなぁ、モモは。愛聖でなにを想像してたの?」
『私で想像?』
「なっ!ち、違う!絶対違うから!違うからねマリー!」
岡「千くんも百くんも!そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。何か冷やす物を・・・冷蔵庫開けますよ!」
クスクスと笑うユキを見ながらおかりんが冷蔵庫から保冷剤を出してハンカチで包み持ってくる。
『すぐに止まればいいけど・・・あ、ほら。とりあえずソファーに座って気持ちを落ち着けて?』
気持ちを落ち着けてって言われても、なぁ。
この後あの衣装もどきを身につけるだろうマリーを想像したら、ドキドキが止まらないって。
そんな事を考えて苦笑を見せながら、何より早く止まってくれよと、ヒンヤリとする鼻先に意識を集中させた。