第18章 Return to Myself
翌朝いつもより少し早めに起きると、昨日あれだけ走り回ったのに体が軽く感じて、三月さんのマッサージって神技だ!と感謝しながらベッドでひとつ伸びをする。
今日は珍しく朝から夕方まで何かと取材や収録で忙しい。
最後の仕事が終わったら、千の家でボイストレーニングが待ってる。
これが一番、大仕事というかなんというか。
どこかのミニスタジオを借りると時間に縛られるからイヤだって言う千の提案でそうなったんだけど・・・
私としては時間に縛りがあるミニスタジオとかの方が気は楽なんだよね。
だって千の家で時間に縛りなくってなると、食事や手洗い以外はずっと千の鬼レッスン。
そうかと思えば、合間には千のベタベタ攻撃・・・あぁ、考えるだけで頭が痛くなる・・・
歯磨きをしながら頭に手を当てながら鏡を見れば、私の背後に立ち同じように歯磨きをする二階堂さんと目が合った。
『に、二階堂さん?!』
大「ん?」
『ん?じゃなくて、いつからそこにいたんですか?!』
姿を見て驚く私をよそに、さもそこにいるのが当たり前のように返事をする二階堂さんに言葉を返す。
二「愛聖がバシャバシャと顔洗ってる時に来て、屈んでる内に歯ブラシ取ったけど?」
『いるならいるって声掛けて下さい!びっくりしたじゃないですか、もう・・・』
大「声掛けようと思ったけど、顔洗った後に普通に歯磨き始めるから気付いてるのかと思った。つか、いいのか?仮にも若手女優が口端に歯磨きの泡付けたままだぜ?」
歯磨き・・・の、泡?
鏡を振り返り自分の顔を見ると、言われた様に大きな泡が存在感を見せていた。
『のわぁっ?!ちょ、それ先に教えて欲しかったですよ!』
慌てて口を濯いで口周りも洗い流しタオルで押さえれば、二階堂さんは楽しそうな目で私を見た。
『はい、どうぞ。場所空きましたよ』
やれやれとため息を吐きながら横に動き、階堂さんが歯ブラシを洗い流して手で水を掬って口を濯ぐのを髪を梳かしながら眺める。
そう言えば二階堂さんの眼鏡を外した素顔、見たことないよね。
もしかして、というか。
歯磨きの後に洗顔するなら、このままここにいたら謎めいた素顔を拝見出来るかも?
なんて考えながら、さり気なく丁寧に髪を梳かし続ける。
大「あのね・・・ずっとそこに居られるとお兄さん困っちゃうんだけど?」