第17章 見えない未来
それなのに、ボクたちはステージに立てずにファンを悲しませる事をしてしまった。
その悲しみと悔しさに身を沈めながらも、TRIGGERの代わりとしてでもあの曲を歌ったアイドリッシュセブンが、陸が眩しくて。
やっぱりあの曲は、アイドリッシュセブンが歌うべき曲だったんだと、実感もした。
今となっては、もうどうにもならないって言うのに。
どうしてボクは、いまここにいるんだろう。
日が落ちて少しばかり温度が下がった風が首元を通り過ぎていく。
キラキラと光を反射させる水面から視線を上げ、小さなため息を吐き出せば、誰かの足音が近付いて来て・・・
「・・・天にぃ・・・」
・・・ボクを呼んだ。
陸・・・どうしてここに?
お互いの姿がハッキリと見えると距離に来ると、陸はボクを見て足を止めた。
「天にぃ・・・えっと・・・こんばんは・・・あ、こんばんはっていうのもなんか変か・・・ここで何してるの?もしかして仕事の帰りとか?」
子供の頃と変わらない笑顔で話し出す陸に、どこか・・・気持ちが和らいで行くのを感じた。
「陸・・・こんな時間に出歩いたら、気管を冷やすでしょう」
ほんの少し小さく息をつけば、陸はそんなボクに大丈夫だよと言った。
陸「子供の頃に比べたら、大分良くなったんだよ?最近は発作の回数だって減ったし」
「そう。それでも、気を付けなきゃダメだよ」
陸「うん・・・」
そう言うと陸はボクの隣に立って、相変わらずキラキラと光を反射させる水面へと視線を落とした。
陸「この前、TRIGGER・・・ステージに立てなくて、残念だったね・・・」
ぽつりと話し出す陸に、言葉を返す代わりに視線だけを向ける。
陸「あの時、いつもより上手く歌えたから・・・天にぃに見て欲しかったんだ。あ、天にぃの真似をする訳じゃなくて、子供の頃に外を走り回れないオレの為に、天にぃが歌って、飛び跳ねて、オレを楽しませてくれたから。そんな天にぃを見てオレはいつも笑ってたから・・・だから、天にぃにもその時みたいに笑って欲しかった」
陸・・・ボクはとっくに、歌って飛び跳ねる陸を見て、心配もしたけど、少しだけ・・・笑ったよ。
あの頃の陸が、こんなに元気になったんだ・・・って。
本当は、ちゃんと笑えてたんだよ・・・
ちゃんと・・・ね。