第17章 見えない未来
おっと・・・このままここにいるのは良くないな。
とりあえずはといった具合いに早足で静かに給湯室まで戻り、社長室のドアが開く音で顔を出す。
『社長・・・お先に失礼します・・・』
パタンとドアが閉まるのを確認して、そこでやっと愛聖に声を掛けた。
「あれ?もしかして俺、コーヒー渡しそびれた感じ?」
『万理・・・』
俺の声に顔を上げた愛聖は、俺を見て顔を横に向けては、悔しさで僅かに滲ませていた目を指先で拭った。
『明日のスケジュール確認も終わったし、寮に帰るね』
「それなら送ってくよ。ちょっと待てる?せめて社長にコーヒーを届けて来ないと」
とっくに飲み頃を過ぎてしまったカップを持ち上げて見せれば、愛聖は1人で帰れるから大丈夫だと言う。
『まだ日も暮れ切ってないから大丈夫。歩きながら考えたい事もあるし、万理は気にせず社長にコーヒーを届けて?』
「すぐに終わるから待っててよ」
『いい。今日は1人で大丈夫・・・じゃあ、また明日ね』
言い終わると同時にクルリと俺に背中を向けて駆け出していく。
「行っちゃったか・・・あの様子だと寮に帰ってから泣くパターンだな・・・」
誰に言うわけでもなく呟いて、すっかり冷めてしまったコーヒーを入れ直し、社長の元へと届ける。
「社長・・・いいんですか?」
小「いいって、なにが?」
「社長が昨日あの子たちに言った事が、本心じゃないって事を話してあげなくて、って事です」
実は昨日あれから俺は、愛聖よりひと足早く社長に直談判したんだよね。
小「いいんだよ、あれで。彼らも、ここが踏ん張りどころだって言うことに自分たちで気が付く事が出来なかったら、それはそれで・・・そこまでだって事なんだから」
「そうかも知れませんけど・・・気が付いてくれるでしょうか・・・」
いろいろと拗れてしまった気持ちに戸惑うあの子たちを見たからこそ、俺は心配になる。
小「僕は信じてるけど・・・万理くんは違うの?」
カップに口をつけながら微笑む社長に、俺も信じてますけど、心配は心配ですよと返して自分もカップに口を付ける。
小「生半可な気持ちや努力だけでは夢を掴み切る事は出来ない。それは万理くんも知ってる事だろう?」
そう言ってまた微笑む社長に、俺は1度瞬きをしてから・・・そうですね、と返した。