第17章 見えない未来
❁❁❁ 万理 side ❁❁❁
う~ん、困ったなぁ・・・入るタイミングを逃してしまった。
コーヒー入れて来るからと社長室を出て用意したのはいいんだけど、いざここまで運んで来れば、社長と愛聖が話し合う声が聞こえて来て、思わず足を止めてしまった。
夢が夢じゃなくなってしまった、か・・・
確かに社長の言うそれは、俺にも分かる。
経験者は語る・・・ではないけど、思い描いていた夢が自分のやりたかった現実とは違うと気付いた時、俺も表舞台に立つ事を手放した。
・・・千との時間も、一緒に。
それは実際には怪我の事もあったけど、でも、それだけが理由じゃない。
だけど俺には、愛聖が社長に伝えたい事も分かるから。
あの子たちが頑張る姿をずっと近くで見て来て、いろんな苦労や辛いこともみんなで乗り越えて。
いざようやくこれからと言う時の、環くんが起こしてしまった収録での出来事。
そして、纏まらなくなってしまったみんなの気持ち。
今日、陸くんに会った時に聞いた話でも、驚いた。
まさかそんな場面で愛聖が環くんを叩いてしまったとか、ねぇ。
それに、愛聖が環くんに向けて言った言葉は、いつも愛聖が足を止めそうになった時に自分に向けて言い聞かせているやつだ。
俺の家にいる時も、何度となく鏡に向かっては呪文のように言ってたっけ。
小「そう言えば僕と八乙女は、鬼の八乙女、仏の小鳥遊と呼ばれているんだったね・・・八乙女が鬼と呼ばれるのにも理由が幾つかあるけど、僕だっていつでも仏ではないんだよ」
『それでも!・・・社長お願いします、どうかアイドリッシュセブンもMEZZO"も、解散だなんて言わないで下さい・・・お願い、します・・・』
やれやれ・・・愛聖は本当に、あの子たちの事が好きなんだな。
小「今日はもう帰りなさい。明日のスケジュールは予定変更なく午後からだから、時間になったら迎えに行くよ。それから僕は今から連絡しなければならない所があるから、寮までは万理くんに送って貰いなさい」
『社長、まだお話は・・・』
小「・・・気をつけて帰るんだよ、いいね」
『・・・・・・・・・はい』
有無を言わせない社長の言葉に、少しの間を開けて愛聖の落胆した返事が聞こえ物音が届く。