第17章 見えない未来
百「マジで?!やった!」
お互いに笑いあってパチンと手を合わせるモモと愛聖につられて僕も笑ってしまう。
「まぁ、いいよ。今日の所はモモに譲ってあげる。その代わり、この後のレコーディングは笑顔で歌いなよ?あの歌詞は、あの子たちを思い浮かべて書いたんだろ?」
『なんで・・・?』
「分かるよ、歌詞を見れば。だから僕も曲を付ける時アップテンポにしたんだから」
歌詞のあちこちに、あの子たちを思い浮かべさせられるような背景があったしね。
夢に向かって走り出した人への応援歌、って感じで。
「きっと届くよ、お前が伝えたい気持ちは」
『千、いまサラッと私のことお前って言った・・・じゃあ私もゆっ、』
「その呼び方は禁止って言っただろ?それより、これあげるから早くスタジオ戻ろう・・・モモが取り戻した笑顔が消えてしまわないうちに」
来る時に買った甘い甘いカフェオレの缶を口に押し付ければ、その冷たさに愛聖が驚いた顔を見せて、僕はまた笑った。
「モモ・・・ほら」
同じものをモモにも手渡し、 空いた手で愛聖の手を引いてやる。
「行くよ、Re:valeプロデュースの歌い手さん?」
『ハードル急上昇させるのやめてよ・・・せっかく頑張ろって思ったばっかなの、に?!』
立ち上がらせた愛聖の体を引き寄せ、お互いの呼吸が止まりそうなほど抱き締めた。
『ちょ、苦しいよ千?』
百「あーっ!ユキってばズルい!!」
いつものようにモモが騒ぎ出し、愛聖も僕の腕から抜け出そうとモゾモゾと体を捩るけど、今は離してやらない。
「愛聖がどこで何を悩んで胸を痛めていても、その心の側にいつだって僕はいるから。だから、ひとりで泣いたりするな」
『千、もしかして聞いてた・・・?』
さぁね?と笑いながら愛聖の髪に顔を埋める。
『千ってやっぱり・・・地獄耳』
「聞こえてるから。それにやっぱりってなんだよ」
今は、モモにしか話せない事があってもいい。
いつか僕にも話してくれると、信じてるから。
というか・・・後で、じっくり聞き出すけどね。
そんな小さな意地悪を胸に秘めながら、僕だけが知ってる愛聖の甘い香りを、胸いっぱいに吸い込んだ。