第17章 見えない未来
ってか、動揺してる場合じゃない。
「環が、どうしたの?もしかしてケンカでもしちゃった?」
頭に浮かんだ余計なことを追い払って、少し屈んでマリーの顔を覗いてみる。
『ケンカじゃ、なくて・・・』
「じゃあ、どうした?あ、その前にあっちに座って話そうか?軽く立ち話って内容でもなさそうだし」
ね?そうしようと来た時と同じようにマリーの体に腕を絡ませ、屋上の出入口ドアの横にあるベンチへと連れて行く。
「それで、環と何があったの?」
変わらず俯いたままのマリーに言うと、マリーは何度か小さな深呼吸を繰り返して、そして、やがて話し出した。
『細かいところまで、詳しくは、話せないけど・・・』
「うん。いいよ、マリーが話せるところだけで」
マリーの言葉にそう返してやると、それに小さく頷いて、実は昨日・・・と、ぽつりぽつりと話し出した。
『つい・・・感情的になって、私・・・四葉さんに、酷い事を言ってしまって』
うん、うん・・・と聞き役に徹しながら、あの環がマリーと言い合いになるなんてなぁ、と考えたりして。
「環に、無視でもされた?」
『違うの、私・・・四葉さんを・・・』
そこまで言ってマリーが自分の手を見つめて、また涙を落とす。
『ちゃんと話せば、四葉さんは分かってくれるって思ってるのに。それなのに私・・・四葉さんを、叩いてしまって・・・気づいた時には、もう叩いた後で。それなのに、四葉さんが傷付くような事をたくさん言って・・・』
マジか・・・マリーに手を上げさせてしまうほど、環は何をしたって言うんだ?
『夜、四葉さんの部屋に行って謝ろうとしたけどノックしても返事もなくて。嫌われちゃったのかな、って』
「そ、それは環がもう寝てたとかじゃなくて?」
『多分、まだ起きてたと思う。でも、出て来てはくれなかった・・・叩いてしまった後からずっとその時の感触と、四葉さんの顔が頭から離れなくて。さっきの歌もみんなの事を・・・ううん、なんでもない・・・』
朝から元気がないように感じたのは、昨日そんな事があったからだったんだ。
いつも仲良くしてる環とそんな事があれば、そりゃ確かにヘコむよな。
どうしたら元気になってくれるかな・・・そんな事を考えながら、また零れ落ちそうな涙を指先で払った。