第17章 見えない未来
小「制作側の考えとしては、環くんたち兄妹が施設に入る事になった理由が父親の素行が原因だと分かっていても、時が経てばその思いも緩和している・・・そういう読みだった・・・といった具合いでしょうね」
話を黙って聞いていた社長がそう言うと、下岡さんは頷いた。
下「制作側は、あの時は恨んでいたけど今は違う・・・そういうストーリー展開を予測していた。けど、実際にはフタを開けてみたら予想を遥かに超える事態になってしまったという事みたいだね」
勝手にいい事ばかりを切り取って予想して、それが結果的に自分たちの意図に反する事態を引き起こした。
四葉さんの純粋な気持ちを利用したのは、自分たちの都合ばかりを優先させる大人たちなのに。
大人だとか権力だとかを隠れ蓑にして、四葉さんだけを悪者に仕立てあげたんだ・・・
『そんなのって・・・酷すぎる・・・』
気持ちを塞がれる内容に苦しくて俯けば、いつの間にか握り締めていた手に涙が落ちた。
『こんなに、みんなが苦しい時に・・・私はまた、なにもしてあげられない・・・』
四葉さんと逢坂さんが八乙女社長二引き抜かれそうになった時も。
ミューフェスで一織さんがミスってしまったステージの後も。
デビュー曲を・・・TRIGGERが先に発表してしまった時も。
逢坂さんが・・・倒れた時も・・・・・・なにも、出来なかったのに・・・
言葉に出来ない悔しさと悲しさが涙となって、次々と零れ落ちて行く。
下「佐伯ちゃん、顔を上げなさい。いま佐伯ちゃんは彼らになにもしてあげられてないって言ったけど、そうじゃないよ。小鳥遊さんも、そう思うでしょう?」
小「えぇ、そうですね」
下岡さんの言葉に社長が静かに頷く。
下「佐伯ちゃんが小鳥遊さんの所に移籍して、今日までどんな事があったのか僕は詳しくは知らない。だけどね、まだデビューして間もなくて右も左も分からないあの子たちが頑張れてるのは、キミが側にいたからだと思うよ?」
『そんな事・・・』
下「あるんだって、それが。アイドルを目指して華々しくデビューしても、実際テレビに出られるようになるまではいろんな苦労もある。手強いライバルや、怖い先輩に囲まれて身動き出来ない息苦しさに、消えていってしまう人たちも少なくない」