第17章 見えない未来
先に歩き出す岡崎さんに続いて私も席を立てば、トレーを返却口に戻した岡崎さんが振り返って笑う。
岡「千くんたちが大事にしている佐伯さんをおひとりで帰したと知れたら、そっちの方が大事件ですから。お気になさらず自分に楽屋まで送らせて下さい」
・・・千に?
それは多分、送らなかった事をどうのというより、自分が知らない所で私といた事を拗ねるんじゃないかな?とも思えるけど。
それは私の自惚れでも何でもなく、いつもの事というか。
『じゃあ、お言葉に甘えさせて下さい』
岡「もちろんです。では、行きましょうか」
そう言って食堂を後にしてエレベーターホールまで来ると、離れた場所からバタバタと慌ただしい足音が聞こえて来て、私の前に人影が回り込む。
「ちょっといいですか! 佐伯 愛聖 さんですよね?アイドリッシュセブンと同じ小鳥遊プロダクションの」
『え、あ、はい・・・そうですけど、あなたは?』
「私はこういう者です。どうぞお見知り置きを」
ポケットから1枚の名刺を取り出し私に差し出すと、その人は僅かに小さく口元を緩ませた。
見るからにテレビ局で張り込んでた記者っぽい、というか名刺には出版社名が印刷されている。
名刺を受け取る事もせずに顔を見て、私になにか?と訊ね返す。
「アイドリッシュセブンの事でいくつかお聞きしたい事がありましてね・・・それほどお時間は取らせませんから、お付き合い頂けませんか?」
なるほど・・・アイドリッシュセブンと所属が同じ私から、何か聞き出そうとしているんだ、この人。
『申し訳ありませんが、私はこれから仕事がありますから』
「そう言わずに、ほんの少しだけで構いませんからお願いしますよ。例えばほら、いま話題のアイドリッシュセブンのセンター七瀬陸と、TRIGGERのセンター九条天が実は双子の兄弟だとか、リーダーの二階堂大和があの大物俳優の隠し子だとか、その辺の話をちょっとでいいから話してくれるとありがたいんですけど、ね」
『私がお話出来る事はありません』
「そう言わずにお願いしますよ。ここじゃなんだったら、向こうでお茶でも飲みながら、」
岡「ちょっと待って下さい」
強引に私を連れて行こうとする記者が伸ばした手を遮り、岡崎さんが間に入って私をその背中に隠した。