第17章 見えない未来
『そうですね、ありがとうございます岡崎さん。後で社長に相談してみます!』
岡「あ、もし本当にオーディション受けることになったら、千くんたちには秘密にしておいて下さい。じゃないと、」
『大丈夫です。内緒にしておきます』
岡崎さんが言いたい事は分かる。
もし私がオーディションを受けるんだなんて話したら、千は絶対・・・自分たちも同じドラマに出たい!とか言い出すだろうから。
そして有り得ない権力をフル活用して、オーディションすっ飛ばして来るに決まってる・・・って言っても、私がオーディションを通過する事が出来たらの話でもあるけど。
『だけど、大恋愛の末のシングルマザー・・・私に出来るかな』
岡「どうしてですか?」
資料にまた目を落として言うと、ランチスープに口を付けかけた岡崎さんがカップをトレーに戻した。
『岡崎さんもご存知だと思いますが、私は物心つく前に父を亡くしていて、そこからシングルマザーの娘として育って来たんです。私の母が父と大恋愛したかどうかは分かりませんけど、私がここにいるということは少なからず愛の結晶だとは思うんです。ただ・・・』
岡「・・・ただ?」
『妊娠や出産、それに子育てとなるともちろん経験ゼロですし、前に千とそういう役があったにしても、あの時はそういう描写は省略されていたし』
そう説明すると岡崎さんも、そうでしたね・・・と言いながらも、いつもの優しい笑顔で私を見た。
岡「自分は千くんたちの影響でという訳ではありませんが、佐伯さんの出演されていたドラマは全部見てます。あ、きっかけはやっぱり千くんでしたけど、全部見てます」
『それは、ありがとうございます・・・?』
ニコニコとした笑顔で言われるとなんだか照れくさくて、語尾が微妙な疑問形になってしまったのを岡崎さんも笑う。
岡「どの役もここにいる佐伯さんとは別人で、見ている視聴者を世界観にのめり込ませる演技力だと思いました。言わば、天職と言うべきか・・・」
うんうん!と頷きながら言う岡崎さんに、さすがにそれは言い過ぎですよと苦笑してしまう。
岡「そんな事ありませんよ。実は制作側のスタッフからも、佐伯さんのお名前を聞くことが多いんです」
『私の名前を?』